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第八話②

「でもさ、伝馬。伝馬だったら、優勝できるよ。だって、伝馬だもん」  チャーハンを食べるのに全力投球していた勇太が、珍しくもひょっと口を出す。 「伝馬ならやれる」  勇太は自信たっぷりに断言すると、再びチャーハンの世界へ突入していく。当の伝馬は面食らったものの、その自信の根拠を知りたかったが、だって伝馬だもんというオチがまた付きそうなので黙々と残りのコッペパンを食べ切った。 「ま、僕も伝馬だったら、いいところまでいけるとは思っている」  勇太の食べっぷりを横目で観察しながら、圭が勇太の言葉を具体的に補足する。 「頭は悪くはないし、体力もある。運動神経もいい。剣道もやっているからスポーツ方面は得意なんじゃないかな。僕の得意分野は頭脳関係で、クラスでも一番だと断言していいけれど、運動は断然不得意だし、体を動かすこと自体が大嫌いだ。スポーツ全般ができて頭もいいのは、今のところクラスでも伝馬や鷹羽くらいだよ」 「ーーそうかな」 「そうだよ。クラスで一緒につるむようになってまだ二ヶ月くらいの僕でもわかったのに。伝馬は自分のレベルを知らなさすぎ」  圭は米粒一つ残っていない空の弁当箱にぎゅっと蓋をする。だが伝馬はあまりピンとこない。差し出されたスタイリッシュな服が似合うよと言われても、身体のサイズに合っていないようなチグハグな感覚。 「それにね」  圭は伝馬の戸惑った様子にちょっとだけ苦笑いする。 「伝馬は最近元気がないし。気分転換にもちょうどいいと思うんだ」 「……元気なく見えるのか?」 「見えるよ。この間も授業中に堂々とため息をついて、橋爪先生に怒られたじゃないか」  圭は呆れる。  伝馬は思い出したというように片手で顔を覆った。ソウイエバソウダッタ……ネチネチ、ネチネチ、ネチネチ。どこまでもネチネチ。伝馬の意識は半分アイスのように溶けた。 「どうしてあんな派手にため息をついたのかは聞かないけれど」  聞かなくてもわかっているようなニュアンスを含ませて、圭は眼鏡のフレームを指先で押し上げる。 「クラス代表になったのはいいチャンスだ。この絶好の機会を(のが)さずにアピールするんだ」  伝馬は片手をずらして、ちらっと圭を見る。圭はしごく気合いの入った眼差しを鋭くさせる。 「自分をアピールできる大チャンスなんだ。これを逃す手はない」  誰にとは言わなかった。教室中に生徒たちがいて騒がしいが、誰がどこで何を聞いているかわからない。  伝馬はうんと頷きながらも眉間を険しくさせる。ホームルームでの担任は、伝馬がクラス代表に選ばれても特に喜ぶわけでもなく「頑張れよ、桐枝」と普通に励まされて終わった。

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