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第八話③

 ――もっと……何かこう、言って欲しかった。  クラスの代表に選ばれるなんて凄いじゃないか。とか。お前だったらやれるぞ。とか。期待している、楽しみだ。とかとか。伝馬の頭の中で願望がストレートに踊りまくるが、自分の妄想なのはわかっているので無情に肩を落とす。  ――ちょっとだけでいいんだ。  でも俺の我が儘なんだろうなあと遠い目になる。  ――先生は俺のこと、どう思っているんだろう。  一成に関する話で情緒不安定気味な伝馬である。どうも思っていないから簡単な一言で終わったんだなと自分でアンサーを出して、ますます気持ちが落ち込んだ。 「……やる気が出ない」  ボソッと呟く。  圭はカーキ色のリュックに弁当箱を入れると、仕方がないなあと教室の壁時計を見上げる。 「伝馬のやる気スイッチを押してあげるよ。ちょっと待ってて」  突然席を立つと、教室を出て行った。  どうしたんだと伝馬は目で追う。俺、何か怒らせたかなと少々考え込んだが、そのうちに勇太がチャーハンを食べ終えて両手を合わせた。 「ごちそうさまでした! うまかった!」  そこで圭がいないことに気がつく、 「圭ちゃんどうしたの? トイレ?」 「いや、違うと思うけれど」  伝馬も小首をかしげる。昼休憩の時間はまだ残っている。 「だいじょーぶだよ」  勇太はランチバックにタッパーを仕舞いながら、美味しいご飯が食べられて幸せモードな笑顔になる。 「伝馬ならやれるよ!」  ……だからその根拠を教えて欲しいと伝馬は痛切に思ったが、先生からもその言葉を聞きたかったなあとしょんぼりした。  放課後、あらゆる雑務を終えた一成は、来月に行われる中間考査のテストの作成に取り掛かることにした。職員室では隣の古矢がうるさく、それを注意する理博もうるさく、もうまとめて窓から投げ捨てたい衝動に駆られたので、相談室でやることにした。  ――今日も色々あったな。  一成は右肩に手をやって優しく撫でる。学園生活は一日として同じではないが、最近はとみにその傾向が強まっているような気がしてならない。  ――まあいい。じいさんもいないし、集中だ。  衝立の奥にある机の前に座る。中間考査の次は体育祭が控えているので、準備の連続で忙しい日々が続く。  ――体育祭か。  一成は取り掛かろうとした手をいったん止めて、胸の前で両腕を組む。今朝のホームルームで体育祭のメインイベントである「学園一文武両道会」に出場するクラス代表者が決定したが、一成の見るところ、選ばれた伝馬は明らかに嫌そうだった。  ――気持ちはわからないでもないが。  下手に声をかけて伝馬を悩ませたくはなかったので、当たり障りのない言葉をかけたが、伝馬が選ばれて多少は嬉しい気持ちはあった。

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