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第十話⑬
人気のない昇降口から、校舎の外へ歩いていく。そこには校舎の外壁に沿って、桜の木が連なって植えられている。とうに春は過ぎて、可憐な桜色の花を咲かせた枝には、深い青葉が光に反射して煌めいている。
伝馬は手前の桜の木の下で足を止めて、後ろに首を反って仰ぎ見た。この木々が幻想的な桜色に染まっていた光景に目を奪われて、あやうく入学式に遅れるところだったのは、つい三ヶ月ほど前の話。
――先生と初めて会った場所だ……
口元をゆるやかに結ぶ。
――俺を捜しに来てくれたんだよな。
たった数ヶ月前の出来事なのに、何だか懐かしくなって来てしまった。あの日は入学式だというのに、両親が食あたりで寝込み、ややテンパりながら走って学園へ行き、何とか式が始まる時間には間に合ったものの、満開の桜にふらりと足を止めてしまい、捜しに来た一成に怒られるという、まるでマンガのような怒涛 の展開だった。
――俺って馬鹿だったよな。
マイトレンドワードになった言葉を改めて嚙みしめる。どこの世界に、これから入学式で、しかも遅刻しそうだったのに桜が綺麗だからと見に行く新入生がいるのか。アホだろうと伝馬自身も普通に思う。一成が馬鹿野郎と怒ったのは正しかった。
――そんな先生が好きになって、よく考えもしないで告白して……
うん、と伝馬は桜の木に向かって小首をかしげる。今思い出してみると、全部がおかしい。圭が駄目出ししたのもよくわかる。
――先生がストレートパンチをするわけだ。
手で頬をさする。あの時は痛くて、どうしてこんな目に遭わなければならないのかと怒りでいっぱいだったが、その後よくよく反省した。自分が無鉄砲過ぎたのだ。
――先生、俺、頑張ります。
目の前の桜の木をまっすぐに見上げる。枝がいくつもしなやかに伸びて、豊かに繁る葉が風にそよぐ。隣の木も、そのまた隣の木も、風の流れのままに葉を揺らしている。その音はとても心地よさげで、自分の心も湧き立ってくる。
――先生に好きな人がいたとしても、俺はもう一度先生に告白するんだ。
よし、と伝馬は片手でガッツポーズをして、昇降口へ戻ろうとした。
だが、その昇降口の方からこちらへ向かって来る人影に気づき、足を止めた。
――副島先生かな?
入学式のことがあったので、つい頭をよぎったが、そんなわけがないと苦笑いした。たぶん、別の教師か生徒だろう。自分と同じように、外の空気を吸いにきたのかもしれない。
そんなことを思っていると、人影はゆっくりとした足取りで伝馬へ近づいてきた。伝馬は体育館へ戻るつもりだったが、その人物の顔がわかると、怪訝そうにその場にとどまった。
それは見知らぬ男性だった。
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