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第十話⑭
伝馬は無意識にペットボトルを強く握る。近づいてきたのは、いたく目鼻立ちの整った長身の男性だった。一目見て外国人だとわかった。
――誰だろう……
伝馬は少し身構えるように顎を引く。
男性は伝馬の顔がはっきりとわかる位置まで来て、優雅に足を止めた。まるでそこに見えない境界線が引かれていて、それ以上進むつもりはないとでもいうかのように、よどみなく立ち止まって、伝馬を見つめた。どこか興味深そうに。
伝馬も若者特有の遠慮のなさで、相手の男性をまじまじと見つめ返す。すらりとした品のある男性だった。スーツ姿だが、全体の雰囲気が映画のスクリーンから抜け出てきたかのように華やかで、薄く澄んだグリーンの瞳が印象的である。その眼差しが自分へ向けられていることに、伝馬は不思議な感じを覚えた。
――知らない人、だよな。
小さく息を呑んだ。今まで会ったこともない外国の男性に見つめられて、なんだか気恥ずかしくなってきた。
――俺に……用があるのかな。
ただ眺められているので、こちらから声をかけるべきか戸惑う。自分に用があり、だから自分の側で立ち止まったのだということは、なんとなく伝わってきた。
伝馬は強く結んでいた口元をゆるめた。あの、と声をかけようとして、固まった。男性が微笑したのだ。とても魅力的に。
「驚かせてしまったようだ」
男性的な声が、笑みを含む。
伝馬は思わず口にした。
「大丈夫です」
言ってから、しまったと後悔した。ナニヲイッテイルンダオレハ……確かにびっくりはしたが、それ以上に男性そのものに目を奪われていた。
男性はふふっと謎めいた笑みを口元にのせた。
「ユニークな子だ」
伝馬は自分の顔がぱぱっと赤くなるのがわかった。ナニガダイジョウブナンダオレハ……自分で口にしておいてツッコミを入れたくなったが、その時になって、男性が話しているのが日本語で、しかも発音も日本人並みに正確であることに気がついた。
「ここで君は何をしているんだ」
男性はごく日常的な会話のように口にする。伝馬も違和感などなく自然に返した。
「あの、桜の木を見に来ました」
もう花は咲いてはいないが、それでも桜の木だ。男性が軽く桜の木へ目線を投げたので、伝馬は少し熱を込めてつけ加えた。
「また来年も、桜の花を咲かせて欲しいと思ったんです」
そうだ、と胸が躍る。来年も咲いて、先生と一緒に見られたら……
「なるほど」
男性の神秘的な色合いの瞳が、深い思考に縁 取 られる。
「やはりユニークな子だ。一成が気に入るはずだ」
独り言のように呟いた。
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