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第十話⑮
伝馬の表情が一瞬止まった。いっせい?
――誰だっけ。
どこかで聞いた覚えがあるような、ないような。なぜか肌がムズムズする。
伝馬は男性に問いかけるような眼差しを向ける。だが男性は伝馬からふらりと視線を外すと、その背後で何かを見つけたかのように口元で笑んだ。え? と伝馬はその視線の先を追うように振り返る。すると、桜の並木を抜けた先にある正面玄関の方から、誰かが小走りで駆けつけてくるのが見えた。
「……副島先生!」
息せき切って現れたのは、一成だった。
「――貴方は、ここで何をしているんですか!」
一成は息を荒げながら、男性へ掴みかからんばかりに食ってかかる。
「ああ、一成」
しかし榮は落ち着き払った態度を崩すことなく、ゆったりと口をひらく。
「記憶が刺激されて、懐かしい場所を歩いていただけだ。そして、ユニークな子に出会った」
そう言って、驚く伝馬に顔を傾けてみせる。まるで、そうだろう? と同意を求めるかのように。
伝馬は戸惑ったように一成を見つめる――先生の知り合いなんですか――心の中で疑問符がつくが、一成の表情はひどく硬く、榮を睨みつけているように見える。だが伝馬の視線を感じてか、かすかに目が伝馬へ向いた。その三白眼は明らかに怒っているようで、それでいて、どこか気まずそうである。
――何なんだ……
だが伝馬の困惑を他所に一成は答えることなく、榮に向き直ると、いっそう眼差しを激しくする。
榮は表情に楽しげな色を浮かべて、悠然としている。
伝馬は――不可解な二人の大人に、独り戸惑っている。
風が、太陽の熱を孕みはじめていた。
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