1 / 9

キッチンからジュウジュウと美味しそうな音がし始めたので、部屋から出て、キッチンに向かう。何かを炒めているヒロを横目で見ながら、冷蔵庫から麦茶を出して自分のコップに注いだ。 「ヒロ、明日の夜仕事だから。」 「分かってる。昼の仕事休む。」 「あ、そうなの?珍しいね。」 「明日は長距離だから、昼間に寝る。」 「あっそ。」 「もう出来るから支度して。」 「はーい。」 外に出していた麦茶のポットに二人分のコップと箸。キッチンのすぐ横にあるダイニングテーブルに運んで、向かい同士の定位置に並べる。真ん中にコルク製の鍋敷きを置けば、ドンっとフライパンが置かれ湯気を立てる。 「ご飯どんくらい?」 「ふつう。」 パカッと開いた炊飯器には炊きたての白いご飯が見える。しゃもじでお茶碗に盛られたご飯は、いつも通りの形をしていた。秤に載せたら、いつも同じグラム数を叩き出す気がする。 「……なに?」 「いや、綺麗だなって。」 「なにが?」 「なーんでもない。」 俺の相棒は何と言うか、効率主義である。洗い物を増やしたくないからフライパンのままだし、炊き上がった米を炊飯器からしゃもじでひと掬いと半分綺麗に盛ると普通盛り。今日のおかずは簡単に出来る肉野菜炒め。 「あれ?ピーマン、入ってる。」 「工事現場の知り合いが家で作り過ぎたって。」 「あ、そ。」 「嫌いだっけ?」 「いや、珍しかったから。」 「ああ。」 しゃもじで二掬いした大盛りご飯を自分の前に置いて、ヒロも椅子に腰かける。 「いただきます。」 「いただきます。」 うん。美味しい。毎日美味しいご飯が食べられるのは幸せなので、ヒロには元気でいて欲しい。 「明日の仕事、なんか聞いてる?」 「いや。お前から聞いてる情報しか。」 「そっか。なに運ぶんだろ。」 「長距離なんだろ?腐ったりはしないんじゃないか?」 「ちょっとぉ!ご飯中!!」 「はいはい。」 俺たちの本職は『運び屋』。いわゆる裏稼業の一種。現金から死体まで、何でも運ぶ。俺たちは比較的大きな組織に属していて、仕事は組織から割り振られてくる。明日の仕事は『いつもの車で長距離移動』としか聞かされていない。明日の深夜1時に事務所に呼び出されている。 「あ、食ったら置いといて。俺が皿洗うよ。」 「いいのか?」 「俺だって皿くらい洗えるよ。」 「……割るなよ?」 「割らないよっ!」

ともだちにシェアしよう!