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プロローグ
現在、医療現場は人手不足により非常に逼迫している。
現場は常にピリピリとした雰囲気に包まれ、他のスタッフを気遣う余裕なんてない。故に、人間関係なんて最悪だ。
にも関わらず、医療は最高のサービス業と呼ばれている。
『お医者様』なんて呼び方は化石となり、今や『患者様』と呼ばれる時代。クレームのないよう、波風がたたないよう……しかし業績は上がるよう、上手く対応していかなければならない。
そればかりではない。
看護師がどんどん実力をつけ、力を持ち、医師と肩を並べて仕事をするようになってきている。
上手く看護師を持ち上げ、対立しないようにしなければならない。弱い医師など、逆に看護師から指示を受けいいように使われてしまっているのが現状だ。
そして俺は、若くしてスーパードクターの称号を手にした、腫瘍科医、月居蓮 。
俺にできない手術なんてない。
だって俺は、スーパードクターだから。
「メスください」
「はい」
ここはこの世界で知らない人はいないと言うくらい、有名な大学病院。
ハイスペックな医師に看護師。そして最先端の医療設備。この病院で手に負えない病気があるとしたら、他のどの病院にいっても治療法なんてない……そう考えてもいいだろう。
テレビ番組でもバンバン紹介され、ドラマの撮影場所にもなっている。そんな超一流の病院だ。
「あのさ、さっきからメスの渡し方が持ちにくいんだけど……もう少し手の中に収まるように渡してもらえるかな?」
「は、はい、すみません」
「あー、今僕が欲しかったのはピンセットです。だからさ、右から3番目にあるピンセット!次はペアンを使いますからすぐ渡せるように準備しといて」
「はい、すみません!」
「手術室でメソメソしないでよ。なんで今日は日下部 君がいないんだ……」
俺はイライラしながら小さく舌打ちをする。
「日下部主任は、今日は遅番です」
「言われなくてもわかってる。次、ペアンください」
「は、はい。すみません」
今にも泣き出しそうなオペ(室)ナースからペアンを受け取ると、再び手術に集中する。
その瞬間、アラームが静かな手術室内に響き渡った。
「蓮、血圧が下がってきてるぞ?薬剤使うか?」
「これくらい大丈夫だ。いいからお前は黙ってモニターを見てろ」
「はいはい、仰せの通り」
麻酔科医の瀧澤晴人 が再びモニターに視線を戻した。
こんな簡単な手術で、俺が失敗するはずなんかない。
いいから黙ってろ。
俺は心の中で吐き捨てる。
そう、職場の雰囲気をぶち壊し、できれば関わりたくない医師第1位なんて看護師達に噂されてるのなんて知っている。俺だって看護師なんかと仲良くしたくはないし、『患者様』なんてアホらしくて笑えてくる。
なぜなら、俺は他の奴らとは出来が違う、天才なんだから。
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