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episode1 日下部の馬鹿野郎
「お疲れ、蓮。あんな難しい手術を涼しい顔をして成功させるんだから、お前は本当に天才だよ」
「瀧澤、蓮なんて気安く呼ぶな。俺は月居だ」
「お前って、本当に人形みたいに綺麗な顔してるくせに、性格はひん曲がってるよな?さっきの手術室だって、空気が凍りついてたぜ?」
「うるさい。病院は病気を治す場所だ。何も仲良しこよしする必要なんてないだろう?」
「ふふっ。チーム医療なんて言葉、蓮には無縁だよな」
突然瀧澤の話し声が止まったと思った瞬間、グイッと強い力に引き寄せられて……俺はバランスを崩した。
「蓮……」
そんな俺の体を瀧澤が受け止めてくれて……気付いた時には瀧澤の腕の中だった。
「でも、そんな蓮も可愛いよ」
「おい、離せ。誰かに見られたらどうすんだよ」
「こんな場所、誰も来るわけないよ。いつもここでエロいことしてたって、見つかったことなかっただろう?」
「離せよ……」
瀧澤から逃れようと体をバタバタさせてもビクともしない。それをいい事に、首筋に瀧澤の唇が押し当てられた。
「なぁ、蓮。もう一度やり直さないか?今度は絶対大事にするから」
「嫌だ、離せよ」
「蓮、今でも俺はお前が好きだ。だからやり直そう」
「ふざけんなよ。好きだ好きだって猛アタックしてきたくせに浮気なんかしやがって……お前の見た目が悪かったら、そもそも付き合ってねぇし」
「もう浮気なんかしないから……蓮、好きだ」
キスされる……。
自分より背の高い瀧澤に抱き締められてしまえば、俺なんて蛇に睨まれた蛙だ。
少しずつ近付いてくる瀧澤の吐息を感じて、目をギュッと閉じる。
あー、なんであいつは助けに来ないんだろ。
さっき、手術が終わったってLINEしたのに……迎えに来ないなんてありえないだろう。
「日下部颯太 の馬鹿野郎……」
こうなったら唇に噛み付いてやろうと思った瞬間。
俺はもう一つの大きな力に抱き締められて、瀧澤の腕から解放される。
フワリと香るシャンプーの香りに、振り返らなくても今自分を抱き締めている腕が誰なのかがわかってしまった。
「月居先生、お迎えに来ましたよ」
「遅ぇよ、日下部!瀧澤にキスされるとこだったろうが!」
「俺は先生の秘書じゃありませんから、看護師としての業務だってあるんです」
「お前、俺が他の男にキスされてもいいのかよ!」
「そんなことより、そんなことをこんな場所でしないでください。誰かに見られたらどうするんですか?」
俺の頭をガシガシと乱暴に撫でてくれているのに、目は全然笑っていない。
「少しここで黙っててください」
……あ、日下部が怒ってる。
そんな日下部を見て感じた。
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