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episode12 最後まで、素直になれなくて
日下部に連れてこられたのは、いつも2人の秘密基地のような場所だった非常階段。
相変わらず吹いてくる風は冷たくて気持ちいいし、そこから見える夜景は綺麗だ。
なのに、そんなものは全然頭に入ってこない。
「はぁ……なんなんですか、あなたは?俺のこと好きじゃないなら、俺が誰と一緒にいても構わないでしょうに?また藤野先生のご機嫌損ねちまったじゃないですか」
「なんで藤野なんかの機嫌なんかとるんだよ?あんな奴どうでもいいだろう!」
「どうでも良くないです。俺は平和主義なので、なるべく敵は作りたくありません」
階段に座っている日下部が大きなため息をついてから、俺を見上げた。
「なんなんですかは、こっちのセリフだよ。お前は俺が好きなのに、なんで他の奴と仲良くするんだよ……めちゃくちゃイライラするし、心臓が痛くなる。もう本当に意味がわからねぇ」
「先生……」
「苦しいよぉ、馬鹿日下部。お前看護師だろ?どうにかしろよ」
俺はギュッと日下部に抱きついた。
涙が自然に溢れてきたけど、もうそんなものはどうでもよかった。
日下部のスクラブにシミがいくつもできる。
「苦しくて辛い……もうこんなの嫌だ……お前を見てると疲れる……」
その瞬間、そっと俺の背中に腕が回されて強く強く抱き締め返される。
あまりの力強さに一瞬息が止まりそうになった。
「ふふっ。馬鹿は先生でしょ?それは恋ですよ」
「……恋……」
「そう。あなたは俺のことが好きなんです」
「嘘だ……」
「嘘じゃない。だってあなたの心臓はこんなにも正直で、俺のことが好きだって叫んでます」
俺が日下部に恋……恋。
瀧澤にフラれたとき、あまりにも辛くて……もう一生恋なんかしないと心に誓った。
それなのに、俺はまた恋をしてしまったなんて。
認めたくなくて、パズルのピースを崩すようにしてバラバラにして見ないフリをしていた。
でも自分でも気付かないうちに、パズルは完成してしまっていたんだ……気付かないふりをしているうちに。
「俺のことを好きだって認めても大丈夫ですよ。一生大事にしますから」
「嫌だ、認めたくない」
「駄目です。こんなにも辛抱強く待っていたんですから、もう離しません」
俺を抱き締める腕に更に力が込められて……。
苦しい、苦しいよ、日下部……。
「もう絶対に離さない。あなたは、俺のものだ」
「ん……ッ……ふッ……」
少しだけ強引に唇を奪われてしまい、呼吸ができなくなる。それでも、夢中で日下部の口付けを受け止めた。
「月居先生……ううん、蓮さん。俺のことが好き?」
「わ、わかんねぇよ、急に言われても」
「なら体でわからせてやりましょうか」
「え……?」
「ベッドでトロトロに蕩けさせて……泣きながら俺のことを好きって言わせてあげます」
「……や、やめて……恥ずかしい……」
「なんですか?それ……反則でしょ……」
「あ……ッ……あぅ……んッ……」
あぁ、素直に君が欲しいって言えたら……どんなにいいだろうか……。
最後まで素直になれない唇は日下部に塞がれてしまい、何も言えなくなってしまった。
【君が欲しいと言えたなら END】
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最後まで『君に好きと言えたなら』を読んでいただき、ありがとうございます。
とりあえず読み切り……という形にしましたが、今後もしかしたら葵君&成宮先生のようにシリーズ化するかもしれません。
その時は宜しくお願い致します。
舞々より
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