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episode11 意味がわからない
「あいつどこ行った?」
ナースステーションにも日下部の姿はないし、病棟も隅から隅まで探し歩いた。
もしかして休みか?と思い、看護師の勤務表をもう一度確認してみる。
「やっぱり遅番じゃん」
他の遅番の看護師はとっくに帰って行ったし……日下部の奴は一体どこに行ったんだ。
何となく過ぎる嫌な予感。
日下部が遅番の時は必ずと言っていいほど、あの雌猫がチョロチョロ動き回るのだ。きっとまた、どこかに日下部を連れて行ったんだろう……。
「あー、なんなんだよ!?」
ナースステーションのテーブルを叩いてから、俺は走り出した。
「意味わかんねぇ。なんでこんなにイライラすんだよ……日下部の馬鹿野郎。日下部の分際で生意気だろ……あー!イライラする!」
俺には思い当たる節があった。
きっと藤野だ。藤野先生が言葉巧みに日下部を連れ出したに違いない。
「ふざけんなッ!」
俺はこの前、日下部が藤野先生に連れ込まれた廊下に向かって走った。
なんでこんなに日下部に執着してしまうのかもわからないし、藤野先生から日下部を奪い返したところで、その先には何が待っているのだろうか。
本当に意味がわからない。
なんなんだよ、この気持ちは……心臓が痛くて仕方ないし、肺が上手く酸素を取り入れてくれない。
苦しくて苦しくて、でもこの気持ちに見て見ぬふりなんて、もうできるはずなんてない。
日下部を誰にもとられたくなんかないんだ。
「いた!」
予想通り、日下部は薄暗い廊下で藤野先生と楽しそうに笑っている。
「もう、日下部君たら……本当に上手ね。好きになっちゃいそう」
藤野先生が日下部の手を握った瞬間、髪が逆立つほどの嫌悪感を覚える。
そいつに触るな……。
「日下部君、私、日下部君のことが……」
「待てよ、日下部……ハァハァ……こんな雌猫に言い寄られて、シッポ振ってんじゃねぇよ……ハァハァ……」
恐らく俺は、藤野先生の愛の告白とやらに割って入ったのだろう。勢いよく後ろから日下部の腰にしがみついた。
「え、月居先生……」
「生意気なんだ、日下部の分際で……俺のことが好きなんじゃなかったのかよ……」
藤野先生に聞こえないくらいの小さな声で呟く。
泣きたくなってきたから、更にギュッと力を込めて日下部に抱きついた。
「もう……あなたって人は……全然わかってないんだから。すみません、藤野先生。月居先生 に用事があるんで、これで失礼しますね」
「ちょ、ちょっと日下部君!」
藤野先生が日下部を呼び止めたのに、まるでそんなのは聞こえないかのように、日下部はさっさと歩き出す。
そんな日下部に引き摺られるかのように、俺は必死に後を追いかけた。
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