12 / 22

episode11 意味がわからない

「あいつどこ行った?」  ナースステーションにも日下部の姿はないし、病棟も隅から隅まで探し歩いた。  もしかして休みか?と思い、看護師の勤務表をもう一度確認してみる。 「やっぱり遅番じゃん」  他の遅番の看護師はとっくに帰って行ったし……日下部の奴は一体どこに行ったんだ。  何となく過ぎる嫌な予感。  日下部が遅番の時は必ずと言っていいほど、あの雌猫がチョロチョロ動き回るのだ。きっとまた、どこかに日下部を連れて行ったんだろう……。 「あー、なんなんだよ!?」  ナースステーションのテーブルを叩いてから、俺は走り出した。 「意味わかんねぇ。なんでこんなにイライラすんだよ……日下部の馬鹿野郎。日下部の分際で生意気だろ……あー!イライラする!」  俺には思い当たる節があった。  きっと藤野だ。藤野先生が言葉巧みに日下部を連れ出したに違いない。 「ふざけんなッ!」  俺はこの前、日下部が藤野先生に連れ込まれた廊下に向かって走った。  なんでこんなに日下部に執着してしまうのかもわからないし、藤野先生から日下部を奪い返したところで、その先には何が待っているのだろうか。  本当に意味がわからない。  なんなんだよ、この気持ちは……心臓が痛くて仕方ないし、肺が上手く酸素を取り入れてくれない。  苦しくて苦しくて、でもこの気持ちに見て見ぬふりなんて、もうできるはずなんてない。  日下部を誰にもとられたくなんかないんだ。 「いた!」  予想通り、日下部は薄暗い廊下で藤野先生と楽しそうに笑っている。 「もう、日下部君たら……本当に上手ね。好きになっちゃいそう」  藤野先生が日下部の手を握った瞬間、髪が逆立つほどの嫌悪感を覚える。  そいつに触るな……。 「日下部君、私、日下部君のことが……」 「待てよ、日下部……ハァハァ……こんな雌猫に言い寄られて、シッポ振ってんじゃねぇよ……ハァハァ……」  恐らく俺は、藤野先生の愛の告白とやらに割って入ったのだろう。勢いよく後ろから日下部の腰にしがみついた。 「え、月居先生……」 「生意気なんだ、日下部の分際で……俺のことが好きなんじゃなかったのかよ……」  藤野先生に聞こえないくらいの小さな声で呟く。  泣きたくなってきたから、更にギュッと力を込めて日下部に抱きついた。 「もう……あなたって人は……全然わかってないんだから。すみません、藤野先生。月居先生(この人)に用事があるんで、これで失礼しますね」 「ちょ、ちょっと日下部君!」  藤野先生が日下部を呼び止めたのに、まるでそんなのは聞こえないかのように、日下部はさっさと歩き出す。 そんな日下部に引き摺られるかのように、俺は必死に後を追いかけた。  

ともだちにシェアしよう!