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素直になれないクリスマス②
俺は、ずっとモヤモヤ、そしてイライラしていた。
ある日、手術を終えた俺は腫瘍科病棟のナースステーションで事務仕事に取り掛かっていた。入院患者の薬の処方をしたり、診断書や保険会社の書類を書いたり、カルテを書いたり……医者の事務仕事は意外に多い。
そんな中、看護師達がキャッキャッと騒いでいる声が聞こえてくる。
「うっせぇなぁ」
なんで女って生き物はこうもうるさいものなのだろうか? 無駄口を叩いている暇でもあれば、本でも読んで勉強しろよな……そう嫌味を言ってやりなくなる。
俺はそんな声を遮断するように、看護師達に背を向けようとした瞬間……思わず耳をダンボにした。
「日下部主任、クリスマスイブ夜勤なんですか?」
「えー! 彼女と過ごしたりしないの?」
「ってか、日下部主任、彼女いるんですか?」
看護師達は日下部を取り囲み、気持ち悪い笑顔を振りまいている。
「俺には関係ねぇ」
そう思ってはいるのに、もう仕事に集中なんかできない。俺は耳をそばだてた。
「彼女なんていないですよ」
「えー!? 本当ですか?」
「絶対嘘だ! こんなにイケメンなのに!?」
「好きな人もいないんですか?」
明らかに顔を引き攣らせている日下部を見れば「お気の毒に……」と感じる。俺だったら即キレてるだろう。
「この病棟の看護師では誰が一番タイプですか?」
「綾 ちゃんじゃない? だって超かわいいじゃん!」
「先輩やめてくださいよ! そんなんじゃないですから!」
「あはははは……」
日下部が愛想笑いをしているのを見て、遂に俺の堪忍袋の緒が切れた。
綾ちゃんのどこが可愛いんだよ? ドブス共が……。
「あのさ、勤務中だよ? 無駄口叩いてる暇があるなら患者のとこ行けよ? うるさくて頭がキンキンする」
俺が口を開いた瞬間、ナース室が凍り付く。今のこの空間なら、きっとペンギンも快適に暮らせることだろう。
「チッ……低能が……」
舌打ちをして仕事を再開する。
不愉快だ……日下部が好きなのは俺なんだよ……。
蜂の子を散らしたように看護師達がナースステーションから姿を消す。シーンと静まり返りナースコールの音が響き渡った。
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