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素直になれないクリスマス③
「何もあそこまで言わなくても……」
「はぁ?」
そっと俺の近くの椅子に腰を下ろしたのは日下部だった。心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「またナースに嫌われちゃいますよ?」
「別にいい。気にならない」
気まずい沈黙が流れる。その沈黙さえイライラした。
「大体お前もさ、何女に囲まれてヘラヘラしてんだよ? 見ててキモイんだよ」
「え?」
「何が彼女いるんですか? だよ……本当にウザい……」
「月居先生、それって……」
「な、なんだよ?」
いつにない日下部の真面目な顔に思わず息を飲む。
「それってヤキモチ、ですか?」
「はぁ?」
素っ頓狂な声を出してしまう。慌てふためく俺を見て、日下部が嬉しそうに笑った。
「そっか、ヤキモチか……月居先生可愛いなぁ」
「お前、俺がいつヤキモチ妬いたんだよ!」
「そっか、そっか……じゃあ、クリスマス一緒に過ごしましょうね? ある公園に凄い立派なクリスマスツリーがあるんです。それを見に行きましょう!」
「お、俺は行かないぞ!」
「まぁまぁ。どうせクリスマスに予定なんてないでしょう? 月居先生とデートなんて嬉しいなぁ」
なんて言ったらいいのかわからず、金魚のように口をパクパクさせていれば、日下部がクシャクシャッと頭を撫でてくれる。
「ちょ、ちょっと日下部!?」
「楽しみにしてますね」
日下部は手をヒラヒラ振りながら、ナースステーションを後にした。
こんなガキみたいな扱いを受けているのに、俺の心はどうしてもザワザワ騒いで仕方ないのだ。
もっと日下部を見ていたい。
もっと日下部の傍にいたい。
もっと日下部を独り占めしたい。
クリスマスだって、出来れば日下部と過ごしたい。
でも、それはなんでだ?
日下部はこの感情を恋だって言ってた。俺は日下部のことが好きなんだと……。
でも嫌だ、そんなの認めたくない。認めたら、きっとドロドロに溶けて日下部に溺れ切ってしまう。そんなのは駄目だ。
俺は、完璧でなければならないんだから。
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