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素直になれないクリスマス⑧

「クリスマスのジンクスにさ、『クリスマスツリーの下でキスをすれば、2人は永遠に結ばれる』っていうのがあるんです。だから俺は、蓮さんとここに来たかったんです」 「クリスマスツリーの下で?」 「はい。いつも人の命に関わるようなピリピリした現場にいるけど……たまには、こういうロマンチックなのもいいんじゃないかな?」 「お、俺達にロマンチックなんてキモイだけだろう?」 「まぁまぁ、そう言わずに……おいで」  日下部がクスクス笑いながら、もう一度手を繋いでくる。その温もりにキュッと心が締めつられた。  クリスマスツリーの下までゆっくりと歩み寄れば……破裂そうなくらい心臓が高鳴り出す。  怖くて、恥ずかしくて……。いつもみたいに「離せよ! キモイんだよ!」と日下部を怒鳴ることさえできやしない。  どうしたんだよ、今日の俺は……。  これじゃあ、これじゃあまるで……日下部のことが……。 「なぁ、蓮さん」 「ん?」 「今好きな人とかいますか?」 「…………」 「ねぇ、いる?」  あまりにも真面目な顔で問われた質問に言葉を詰まらせた。 『俺が好きなのは……』  そう言いかけた言葉を俺は飲み込んだ。  その瞬間、瀧澤に浮気をされてボロボロになった時の記憶が、頭の中を過る……これの繰り返しで、俺は新しい恋ができずにいた。きっと、それはこれからも変わらないだろう。  でも、でも……今日くらい素直になりたい……。 「い、いるよ」 「え?そうなの」  弾かれたように顔を上げた日下部を見つめれば、視界がユラユラと涙で揺れた。 「でも……」 「でも?」 「誰かは、秘密だよ」 「そっか。秘密……なんだね。ちょっと、知りたかったなぁ」 「日下部は馬鹿野郎だ」 「そりゃあ、医者に比べれば馬鹿ですよ」  目の前には大きな大きなクリスマスツリーがそびえ立ち、心地いいクリスマスの音楽が流れている。  キラキラと光輝いた世界。  行き交う人達の顔まで、キラキラと輝いていた。  そんな公園に、ヒラヒラと粉雪が舞い降りる。  粉雪……違う。白い天使だ。  可愛い可愛い笑顔の天使。  クリスマスに、白い天使が舞い降りた……俺はそう感じた。 「男同士なんて俺等だけじゃん」 「いいじゃん、一緒にいて幸せなら……他人なんか関係ない」  幸せそうに笑う日下部に腕を引かれ、そのままギュッと抱き締められる。その瞬間、心臓がドキドキと鳴り響き……呼吸さえできなくなる。体鷲が痺れて、立っているのもやっとだった。 「蓮さんがいれば、他はどうでもいい」  そんな日下部を俺も抱き締め返す。子供みたいに無邪気な日下部が本当に愛おしく思えたから。  だから抱き締めた。  精一杯の思いをこめて。  キラキラ輝くクリスマスツリーの上に、ドンドンと大きな音をたてて、星屑のような花火が打ち上がる。穏やかななクリスマスソングが、嫌に耳に響いた。  だって、今日はクリスマス。  恋人や家族の為の温かいイベント。関係ないとは言いながらも、やっぱりその雰囲気は楽しくて仕方ない。  そんな、サンタクロースがかけた魔法に、今日だけは染まってしまおう。  いつもは素直になれない俺だけど……サンタクロース……本当にいるなら少しだけ俺に力をください。  メリークリスマス、日下部。

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