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第38話『呼び出し』

— サキくん、今、月下に泊まってる?   それは二週間前に会ったばかりのヒロムからだった。今日ここに泊まることは話していた。   —泊まってます。いいホテルでびっくりです。   返事を出すと、すぐに返信がきた。   —僕も今夜泊まるんだ。1506号室なんだけど、サキくんは何号室?   驚きながらも、サキは1002号室と書いた。   —今から行っていい? 久我さんのことで、伝えたいことがある   サキは眉を潜めた。なぜ久我のことを知っているのか、と思ったが、久我はソフィアの上客だったことを思い出した。   どうしようか、と迷ったとき、がちゃり、と部屋の扉が開いた。   サキは驚いて、ベッドから跳ね起きた。ドアを凝視すると、 「どうしたの?」   とレイが首をかしげた。サキは大きく息を吐いて、ベッドに倒れた。 ヒロムかと思ってしまった。 鍵を持っているわけがないのに、タイミングが良すぎて、心臓に悪い。 「サキ?」   レイは訝しげにベッドの前で立ち止まった。 「こんなに早く戻ってくると思わなかったから、びっくりしただけ」 取り繕うために言ったが、嘘ではなかった。アミとどんな話をしたのか気になるが、それよりもヒロムの方をなんとかしないといけない。 サキはレイに携帯の画面が見えないように半身を捻った。 —部屋はだめです。レイと一緒だから 素早く返事を書く。レイは窓際にある一人掛けのソファーに腰を下ろした。 —それなら十二階のラウンジバーに来てほしい サキはチャットではダメかと訊いてみたが、直接、話したいという。   行くかどうか迷ったが、わざわざ連絡してくるくらいだ。知っておかねばまずいことでもあるのかもしれない。サキは身体を起こした。 「飲み物買ってくる」   レイの視線を背中に感じながら、サキはカードキーと携帯を持って、部屋を出た。 エレベーターで十二階に降りると、ラウンジバーはすぐに見つかった。   店内に入ろうとすると、白いシャツに黒のベストを着た店員がやってきた。 「知り合いを探してるんですが、いいですか」   サキが断りを入れると、どうぞ、と店員が道を空けた。 酒の並んだカウンターの前を通り、店内を見回す。ひとり客は数名いた。適度に暗さを保った照明のため、顔がよく見えないが、ヒロムではなかった。 窓に向かって座っている男がひとりいて、ヒロムではないような気はしたが、念のため近づいてみる。   サキの気配を感じたのか、客が顔を上げてサキの方を振り向いた。   その男は異国風味の彫りの深い美形で、目だけが異様に光っていた。

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