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第47話『まさかのヒート』

ユタカさんは自身の携帯を触っていた。 「新しい水族館なら、明賀じゃないですか?」   レイは口を挟んだ。 「あ、そうだね。明賀だ。ここから電車一本で行けるよ」   ユタカさんが携帯画面をサキに見せる。サキは覗き込んだ。二人の距離が近い。 「その水族館、おれも気になってたんです。おれも一緒に行っていいですか」   レイは図々しく言ったが、ユタカさんは「もちろん!」と、にこりとした。それから思いついたような顔をした。 「そうだ、ダイチも誘っていい?」   ちら、と含みのある目で見られ、レイは一瞬、返答に詰まった。 「あいつも水族館好きだからさ」   ユタカさんが笑いかけてくる。 「あ、ええ。おれはかまいませんけど」   レイが答え、サキが了承したとき、自動扉が開く音がした。三人が入口に目をやると、背の高い中年男性が入ってきた。ユタカさんは矢継ぎ早に言った。 「じゃ、おれは帰るから。またあとで連絡するな」   そのときだった。   ふわっと鼻腔をくすぐる甘い香りがした。覚えのある匂いにレイはハッとしてサキを見た。カウンター内にいたサキは片手で口元を覆い、下を向いていた。 ユタカさんはサキの異変に気づかず、カウンターから離れる。 「サキ……!」   レイが声をかけると、サキは瞳を潤ませ、レイを見た。オメガのフェロモンの香りが強く漂ってくる。レイの声にユタカさんはサキを振り返り、目を見開いた。 「ちょ、サキくん! まさかヒート⁉」   レイの心臓がどくん、と鳴った。煽られるほどではなかったが、間違いなくヒートを起こしかけている匂いだった。 そのとき、後ろから強い視線を感じ、レイは振り返った。入ってきたばかりの男性客がサキを食い入るように見ていた。 (まずい。アルファかもしれない)   レイが焦ったとき、ユタカさんがサキの肩を抱いた。 「とりあえずバックヤードに入ってて」  サキを連れてユタカさんが行こうとしたので、レイも追いかけようとした。すると、ユタカさんが鋭い目を向けてきた。 「レイは危ないだろ」   あ、と思い、足が止まる。 レイはバックヤードに入った二人の後ろ姿を見送った。

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