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第53話『白河さんの助言』
窓からの陽射しが優しく照らしている。
「そこに掛けるといい」
白河さんが目でソファーを示してくれた。サキが座ると、白河さんは一人掛けのソファーに腰を沈めた。
「お時間取っていただいて、ありがとうございます」
サキがかしこまると、白河さんは微笑んだ。
「なんだか営業に来た人みたいだね」
サキは苦笑した。社会人の癖が出てしまったようだ。白河さんは目元を和らげた。
「さて、訊きたいこととは?」
白河さんはヒートを起こしたのに普通にやってきたサキに対して、何も言わなかった。
サキもまた、余計なことは口にせず、単刀直入に切り出した。
「訊きたいのはヒートの周期のことなんです」
白河さんは真顔になると、目で先を促した。
「ここ半年くらい周期が安定しないんです」
サキは三十日周期のはずのヒートの予定が早まったり、遅くなったりすることを話した。
元の魂は予定が狂ったりしなかったようだった。それは携帯に入っているヒートの通知アプリの過去歴を見ていてわかったことだった。
どう考えてもサキと入れ替わってからの異変である。
「それは困るだろうねえ」
白河さんはのんびりした口調で言った。
「薬は何を飲んでるんだい?」
「お店で売ってるやつです。ドラッグストアで買ってます」
白河さんは、ふむ、とうなずいた。
「周期が安定しないときは、病院で処方してもらった方がいい」
サキはなるほど、と思った。医療機関にかかるという発想はなかった。
白河さんはソファーのひじ掛けに身体を傾けた。
「病院の薬はよく効くからね。一日分でも充分だ。周期が安定したら市販の薬に戻すといい。医者からもそう言われるだろう」
サキはうなずいた。
「わかりました。病院に行ってみます」
当面の対処がわかり、礼を言おうとしたとき、白河さんが口を開いた。
「とまあ、今のは一般的な話しだ。ここからは私が思ったことなんだが」
西日が白河さんの顔に当たっている。サキは無意識に背筋を伸ばした。
「泉くんは昨日連れて来てくれた友だちのことが、好きなんじゃないのかい?」
白河さんはさらりと言った。
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