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第73話『協力者』

ハルキはソフィアの店先で地団太を踏んでいた。 「久我アラタがいるだろ! あいつに会わせてくれ! 一緒に連れてきた奴、見てないか⁉ あいつは久我に攫われたんだ!」   犯罪をほのめかす言葉に、店の若い男は嫌な顔をした。 「客のことは話せないし、営業妨害だ! 警察に突き出すぞ!」   逆に脅されてしまい、あっさり摘まみだされてしまった。 地下一階から地上に上がり、ソフィアの裏口でハルキは恋人の服を掴んだ。 「ヨウちゃん、どうしよう!」 威勢よく乗り込んでいったものの、どうすることもできなくなり、ハルキは年上の彼氏を前にうろたえていた。 〈CAR=AI〉の追跡モードで追って来た車は、この店の地下駐車場に停められていた。   ソフィアがアルファ専用のオメガバーだということもわかり、久我はこの店にいると確信した。 だが、不用意に騒いでしまったのは失敗だった。ハルキが爪を噛んでいると、 「ハル!」   と、背後から名前を呼ばれた。振り返ると、レイが息を切らして走ってきた。 「サキは⁉」   鬼気迫った顔にハルキは首をふった。 「ダメ。相手にしてもらえなかった。ここにいることはわかってるのに……!」   ハルキが無念そうに言うと、レイは忌々しげに建物を見上げた。 ハルキの恋人もレイもアルファだ。入ろうと思えば店には客として入れるだろうが、久我のところに辿り着けるとは思えなかった。 何か手はないか、と三人で話していたときだった。 「霧島くん?」   唐突な第三者の声に一斉に顔を向けた。立っていたのは、目の下にホクロのある美形の男だった。 レイは驚いた顔をし、閃いたように彼に近づいた。 「ヒロムさんでしたよね」   彼はレイが近寄ると、両手で両肘を覆い、一歩下がった。声を掛けてきたのは彼だというのに、ばつの悪そうな顔をしている。レイは色気のある彼に言った。 「久我がサキを連れてこの店に入ったんです」   男は目を見開いた。 「久我さんが……⁉」   レイはうなずいた。 「サキは久我に喧嘩を売りました。オメガに虚仮にされたあいつが、黙ってるわけがない」   男が、え、と言い、ハルキもまた驚いた。 「久我に喧嘩を売った⁉ あいつ馬鹿なの⁉」   たまらず言うと、「ハルうるさい!」とレイに叱られた。 「サキを助けたいんです。中に入れてくれませんか」   レイが真摯な眼差しで見つめたが、男は戸惑っていた。   店の裏口で男四人が溜まっているのを横目に、従業員らしき別の男が、悠々とドアを開けて入っていく。 色気のある男はまだ迷っている。すると、レイが低い声で言った。 「あなたが、おれやサキに対して少しでも悪いと思ってくれているなら、協力してください」   ハルキにはなんのことかわからなかったが、その言葉は男の心を動かした。 「……わかった。店長のところに行こう」   男は仕方がないといわんばかりに裏口から招き入れてくれた。

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