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「せっかくだし、少し外を歩こうよ」 「じゃあ真宵山の公園に行こうか?あそこの高台からなら花火がよく見えるし」 「うん、いいね」  浴衣に着替えた俺と仁郎は母家の縁先に戻り、団扇で熱気を払いながら出かける相談をしていた。  花火を見るならベストスポットは会場付近の夜店で賑わう商店街だが、仁郎が人混みが苦手なのを考慮して、真宵山神社に近い高台の公園を勧める。  仁郎が人混みに行きたがらないのは“見えないものが視える”せいでもある。人の多いところでは特に人と“そうでないもの”の区別がつかないこともあるようで、人混みを嫌っていた。 「ねえ二人とも花火見に行くの?スイカ切ったけど食べてく?」  そこに声がして、スイカが乗った皿を片手に姉が台所の方から縁側に顔を出す。その背中にはおんぶ紐に包まれた赤ん坊がすやすやと眠っている。 「いただきます」 「仁郎くん、浴衣似合ってるよ」 「ありがとうございます。お姉さんにそう言われると嬉しいなぁ」  美人に弱い仁郎がニコニコで姉に応じるのがちょっとむかついて、俺は二人の間に割り込むようにして姉から皿を受け取った。 「ありがとう。お皿は片付けておくから姉さんは向こうに行ってていいよ」 「じゃあお願いするわ」  全てお見通しの姉は笑って台所の方に引っ込んで行く。    俺は縁側に皿を置いて、スイカを一切れ手に取った。食べやすいように切り分けられたスイカは瑞々しい夏の色をしている。 「はい、あーん」  おもむろに仁郎がへらりと表情を崩して、俺の口元にスイカを持ってきた。単にふざけてるのだろうけど、仁郎のそういうところにいつもドキッとする。 「あー……ん、美味しい」  俺もそれに乗って差し出されたスイカを齧る。シャクという歯切れのいい音と共に、冷たく程よい甘さが喉を潤す。  俺が食べたのを見て、仁郎も頭が欠けたスイカを口に含んだ。 「うん、美味しい」  男同士、花火大会の夜、浴衣で並んで二人っきり…… スイカの甘さよりも、甘い空気に満ちていて、俺はスイカを食べる仁郎を盗み見て幸せな気持ちに浸っていた。 「そろそろ行こうか」  縁側から見える部屋の時計を確認して仁郎が促す。  スイカを食べ終わった俺たちは出かける準備を済ませ、真宵山の公園へ向かった。

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