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1軍幼なじみと恋をする②

 モノトーンの服、眼鏡、帽子。変装OK。  昨日は部屋の掃除や数日分の食料の買い出しで忙しくて、尾行できなかったからな。  あらかじめ今日のための服もカバンも用意しておいたので、急いで支度をし、和真が駅に着くころには追いつくことができた。足、オレのほうが早いし。  和真は先に駅に着いていた友達と合流した。あいつのことは友達①と呼ぼう。あとの2人は別行動なのか? よくわからんが、友達①……距離が近くねーか……  胸中をモヤモヤさせていると、 「おっはよー、ストーカー野郎」 「うるせぇ、ストーカーじゃねぇっつの」  肩に飛びついてきたのは、颯太だ。同じ学部のやつ。  見た目はチャラついてるが、好きなものは好きとハッキリ言う、オープンなオタク(本人談)らしい。和真たちが行くところはオレには勝手がわからないと思ったから呼んだ。ニ●アサ?が見れないとか、そんな理由で断られかけたが、昼飯奢るって言ったら来た。  デパートに向けて歩き始めた和真たちの後を2人でついていく。颯太はオレの格好をまじまじと見て、小さく吹き出した。 「それ変装のつもりか? イケメンオーラ隠せてなくて草。オフのモデルみたいで逆に目立つな」 「パッと見じゃオレってわからんだろ。つか、あいつオレに興味ないし……」  くそ、自分で言って自分で傷ついた。無意識で声を小さくしていて、颯太はオレの心情を察してまた笑った。 「えーと、あの子か。璃央から長年拗らせた執着愛を向けられてる、カズマきゅんってのは」 「名前呼ぶな、きゅんもやめろ。あいつは木山和真。名字で呼べ」 「うわ、めんどくせー……」  話している間に、デパートに着いた。デパートは9時開店だけど限定ショップは10時からって聞いた。和真たちは、すでにできていた列に並んだ。  少し時間を置いてオレも列に並ぼうとしたら、颯太に止められた。 「ライルセは最近メキメキ人気だからさ、興味ないやつが並ばない方がいい。ヘタすれば転売ヤーだと思われる。あとお前は目立つ。同じショップに入ると確実にバレる。やめとけ。出てくるの、あそこで待とうぜ」  颯太が指さしたのは向かいのス●バ。意味わからない言葉の羅列だったが、バレたくはない。仕方なく颯太に従った。  そしてしっかりフラペチーノを奢らされた。オレはコーヒーを注文し、限定ショップが見える位置に座った。さすがに中の様子は見えない。双眼鏡でも買えばよかった。  映える~とか言いながらフラペチーノの写真を撮り終えた颯太が顔を上げる。 「なんで木山くんのこと好きなん?」 「お前に言うわけねーだろ。和真にも言ってねぇのに」 「いや草。恥ずかしがり屋かよ。そういうの、相手にちゃんと言った方がいいと思うけど」  コイツに正論言われるの、ムカつく。 「うるせーな……重いって思われるの嫌だし」 「重い自覚はあるんかい」  そりゃこっちは10年近く好きだし。  和真を忘れるために大学は別のところにしたのに、結局忘れられなかったし。尾行までしてるし。重すぎるだろ。知られたら、嫌われるかも。 「はぁ、お前とじゃなくて和真と来たかった」 「呼び出しといてそれかよ」 「あいつ、甘いもん好きなくせに、注文テンパるからとかで来たことねぇんだろうな。オレが激甘カスタムしてやろう」 「妄想乙……ま、それなら来れるように頑張るしかねぇだろ」  限定ショップを出た和真たちは残りの友達と合流した。  次はなんかのアニメのコラボカフェ?やメイドカフェに行った。友達③の趣味らしい。普通に入ろうとすると、またおんなじ様な理由で颯太に止められた。行けないところが多い。ムカつく。  その次はでかいゲーセン。和真たちはいろんなUFOキャッチャーや音楽ゲームをやってた。颯太がどんな作品か説明するけど、全くわからん。  ゲーム機の隙間からコソコソ覗いていると、和真が「あれ取りたい」と足を止めた。そのUFOキャッチャーには見覚えのある女がいた。 「めるちゃん……」 「めるちゃんはわかるんか。あ、木山くんの推し?」 「あいつはオレの敵だ」 「いや、2次元と3次元で比べても意味なくね……?」  めるちゃんの絵が描かれたタオル?か何かを取る和真の目は、キラキラしていて楽しそうだ。オレといる時よりも。  オレは和真に嫌われてはない。それはわかってる。でも、オレ以外を前にして、心から楽しそうに笑う和真を見てしまった。  今までずっと目を逸らしてきた現実を突きつけられた。知りたくなかったから、この気持ちに蓋をしていた。一緒に帰ったり、ちょっと喋れるだけでいいって、自分に言い聞かせてきたのに。  胸がズキズキと痛んだ。同時に腹立たしかった。悔しいのにムカついた。  オレは和真じゃないとダメなのに、和真はオレを選ばなくてもいいんだろう。  鬱屈した気持ちは溜まっていく一方で。オレの気持ちを知らないまま、和真は東京観光を楽しんでいる。次はスカイツリーに行くみたいだ。オレが案内してやりたかった。  土産物フロアで足を止めた和真は酒を手に取った。どんな酒なのかは、ここからじゃわからない。友達②が覗き込んで話しかけている。 「和真、それ買うの? お土産?」 「うん……ま、手土産にでもって思って。待てよ、こっちのがいいかな。いやこっち?」 「相手の好きな酒わかるの?」 「なんか辛口のやつ飲んでた気がする……? ちょっとアドバイスくれよ」 「よかろう」  酒弱いくせに、一生懸命選んでいる。友達②と見て回り、良いのがあったのか、幸せそうに笑っている。相手のことを思い浮かべてんのか。そんな顔して選んで……誰にあげるんだよ。贈る相手がオレじゃないことくらい、嫌でもわかる。  その光景を見ていた颯太が揶揄うように笑う。 「ありゃ、好きな人にあげるな。知らんけど」 「……」 「まだ壊すなよ~嫉妬ゲージ」  ひと通り回って外に出ると、日が落ちていた。和真たちは晩飯をどこに食べに行くか、相談している。  和真の姿を見ていたくて、和真がどんな風に過ごすのか気になって、友達がどんなヤツか気になって、尾行したのに……自業自得なのはわかってる。でも腹が立ってどうしようもない。ムカつく、ムカつく。  なんで、和真の隣にいるのはオレじゃないんだ。あいつらより、オレの方が先に和真と友達になって、好きになったのに。オレがいちばん和真のこと好きなのに。  趣味が違うってだけで、一緒に買い物も飯も行けないのか。オレは気にしねぇよ、和真の隣にいれたら、どこだっていいんだよ。    和真の隣にいるのはオレだろ。  オレの……オレの和真なのに!  もう、嫉妬のゲージはぶっ壊れた。 「和真」 「え、璃央!? なんでここに!?」  オレは眼鏡と帽子を取り、話に割り込んだ。  驚く和真の隣で、友達②が「あ」と抜けた声を上げた。 「あの2人、和真の友達だったん? 目立つなぁって思ってた。今日ずっとついてきてたよ」 「え?」  和真はオレをちらりと見る。なんでオレがそんなことをしたのか、全くわかってないみたいだ。それもそれでムカつく。  和真の手を無理やり掴んで、引っ張って歩き出した。 「おーい、璃央。お友達たちには俺が話しといてやるよ」  颯太の声に振り返って、頷くだけの返事をした。

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