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祝え!和真の誕生日!④

 数々のソシャゲを開いて推しキャラやそれ以外にも誕生日を祝ってもらう周回にも一区切りつき、町に繰り出した。  とりあえず腹ごなしだ。どこに行くのか不思議そうについてくる和真を引き連れて、人気のレトロ喫茶にきた。 「和真、気になるけど勇気なくて入れないって言ってたろ」 「そう、ここのケーキが美味いって聞いて……璃央とじゃないと来れないなって思ってたんだ」  そりゃ和真と行きたいところもマップにピンつけてるけど、和真が行きたいって言ったところもピンつけてるからな。  扉を開けると、カラン、と耳に心地の良い音が鳴った。店内も外観通りシックで落ち着いた雰囲気だ。映えスイーツの店も喜ぶかと思ったが、映え目的の女らがキャピキャピしてる中だとゆっくりできないからな。たぶんオレも見世物みたいにされるし。優雅にモーニングを楽しむおじさんやマダムがいる、こういう店の方が好きだ。  和真は物珍しそうに店内をキョロキョロ見渡して、メニューを手に取った。 「チーズケーキにしようかな……あ、クリームソーダも飲みたい!」 「よく朝からケーキに加えて甘い飲み物飲めるな。オレはコーヒーとサンドイッチで」 「大人……」 「和真が子ども舌なんだよ」 「いいだろ別に!」  こうやって和真と何気ない会話をしてゆっくりした時間を過ごす、幸せだ。  って、和真の誕生日なのにオレが幸せに浸って満足してるな…… 「今さらだけど、誕生日なのに家族と過ごさなくてよかったのか?」 「まあ、家族でパーティーするような歳じゃないしな」 「えっ、オレん家は毎年全員の誕生日祝ってるぞ!? 特に花鈴が盛大に祝えってうるさい」 「璃央の家は仲良いからなぁ。年齢とか関係なく続きそう。それでいいじゃん」  和真の返答は否定の言葉じゃなくて肯定で返ってくるところが好きだ。 「んじゃ、今日は遠慮なく和真もらうわ」 「お、おん……」  喋っていると料理が運ばれてきた。和真と話してるとあっという間だ。 「わー、いただきます!」 「いただきます」  コーヒーに口をつけながら顔を上げると、和真は幸せそうにケーキを頬張っていた。 「うま~!」 「嬉しそうだな」 「そりゃこの状況なんだから当たり前だろ」 「誕生日だし、気になってた店だし?」 「あと……」  言おうか迷ったのか目を右往左往させて迷ったあと、しっかり目を合わせられた。 「璃央と食べると、なおさら美味く感じる。前からなんだけど」 「は」  サンドイッチに挟まれていた玉子がポロポロと皿に落ちた。  んなこと思って食べてたのかよ! 早く言えよ! いや、今言ってくれただけ早い方か! 「オレもに決まってんだろ!」 「はは、真っ赤だ。璃央可愛い」 「だから、お前の方がかわいいわ!」  店を出て、次の目的地に向かう。この喫茶店良かったからまた来よう。コーヒーも美味かった。 「次は水族館だ!」 「水族館!」 「和真そういうの好きだろ」 「うん。水族館とかいつぶりだろ。中学の時、校外学習で行ったよな?」  別のグループで回ってた和真をたまたま見つけて、クラゲを眺めてるとこをこっそり隠し撮りしたのは黙っておく。 「行ったな」 「それ以来かも」  よし、いいチョイスだったみたいだ。動物園もいいが、ムード的には水族館かなと思ってな。幻想的な空間で和真の写真撮って、暗めの照明に紛れて手ぇ繋いだり……!  そんな期待をしつつ、地元から少し離れた海沿いの水族館に来たが…… 「璃央、しゃがんでもうちょい右寄って……あ、ちょうどペンギンきた!」  カシャカシャッとスマホのカメラのシャッターが切られた。  水族館に来てから、和真はオレと水族館の生き物のツーショを撮るのに夢中になっていた。 「すげぇいい写真撮れた……! ほら璃央見て、ペンギンも璃央の顔に見惚れてる」  実際今も柵越しのペンギンたちはオレに寄ってきている。見せてくれた写真は本当によく撮れていた。『彼と水族館デート』みたいなタイトルがつけられた雑誌のひと場面みたいだ。オレを頻繁に撮るようになってから和真の写真の腕は上がっている。  そうじゃなくて! 「そこはオレと和真のツーショだろ!」 「えっ、もう何枚か撮ったし……イケメンと並んでツーショは……」 「オレと和真以外見ねぇだろうが!」 「ごもっともですが……」  もそもそと自信なさげな和真はパンフレットに視線を落とし、次に行きたいところを指さした。 「次はカワウソとお願いします」 「くそ……和真が撮りたいなら協力するけど……オレも和真の写真いっぱい撮るからな。そうじゃないとフェアじゃねぇ」 「俺じゃなくて可愛い動物や魚を撮ってよ……」 「お前がいちばんかわいいからだよ!」  ひと通り見てまわり、水族館内の屋台で少し遅めの昼飯を買った。イルカ型のバンズで作られたハンバーガーを食べながら、 「そういえば昔、誕生日の日に璃央と会った時、おめでとうって言ってくれたことあったよな。部活で学校行ってたんだっけな」  和真が何気なく口にした。 「は、覚えてんのか!?」 「誕生日覚えててくれたんだって嬉しかったし。それに毎年休み明けにお菓子くれたし……あ、もしかしてずっと当日に祝いたかった!?」 「そうに決まってんだろ! 鈍感!」 「ほらだって、そういや誕生日だったよな~って感じで軽かったじゃん」 「それは……まあ、そう思われるようにしてたし」  丸きりそのとおりに通じてたらしい。いいんだけど、ガチで全く意識されてなかったんだな……昔のオレが可哀想になってきた。 「だから今日のは、今まで祝いたくても祝えなかった分ってことだ」 「あの、俺は璃央の誕生日祝ったことなくてごめんな……」   そう、そうなんだよ。察するときは察するくせに、自分への好意には気付かない。この鈍感男め……でも好き。 「そもそもオレの誕生日覚えてんのか?」 「8月8日……だったよな」  おそるおそる探るように言ってるが、合ってる。「正解」と伝えるとホッと胸を撫でおろしている。  オレの誕生日も夏休み真っ盛りの8月だ。だから和真に祝ってもらったことはない。ゴールデンウイークなんて比にならないほど休みが長い。次に会うのは9月……よくて8月の登校日なんだから会った時には忘れてるだろうし、祝われないのもプレゼントをもらえないのも仕方ない。  そう思って気にしないようにしてたけど、今年からは貪欲にいかせてもらう。 「和真も、今までの分返してくれねえと割に合わねえな?」 「うん、今年は絶対祝うから! 今までの分!」 「楽しみにしてる」 「そういう計画とか苦手だけどなんとか頑張るから」  和真は自信がないながらも気合を入れている。 「欲しいものとか、ある?」 「んー……」  オレのために用意してくれるなら、なんだって嬉しいんだけどな。でもこのチャンスは活用させてもらうぞ。 「エロい和真期待してるわ。よろしく」 「はぁ!? 普通に祝うんじゃダメなのか!?」 「どうしたらオレが喜ぶのか、たっぷり悩め」  その間、和真の脳内はオレで埋まるもんな! 「っしゃ、さっさと食って、まだ見てないところ行くぞ!」 「ちょ、まってまって」  慌ててハンバーガーを頬張る和真の腕を掴み、耳もとに口を寄せる。 「今日の夜も楽しもうな♡」 「……っ! だから、いちいちエロい……!」  オレの最高のゴールデンウイークは、まだまだ始まったばかりだ!

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