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満喫ゴールデンウィーク①

 和真の誕生日は泊まりにせずに、晩飯を食べて帰るくらいの時刻を狙ってお互いに家に帰った。4日は和真の身体が終わってたから(そりゃあ、2日と3日はめちゃくちゃにヤったので)和真の部屋でのんびりと過ごした。  そして5日。今日も和真の家に行くために洗面所で髪を整えていると、まだパジャマを着たままで眠そうな花鈴がやってきた。 「顔洗いたいからどけて」 「ちょっとぐらい待てよ。今セットしてんだよ」 「あたしもギリなの!」 「お前まだ着替えもしてねーだろ!」  朝っぱらから洗面所の取り合いをして、結局顔を洗う花鈴の隙間から鏡を見るハメになった。 「璃央は今日も和真んとこだよね」 「そーだよ」 「ほんっと大変わりしちゃって。昨日も頑張ってたし?」 「うるせーな」  こいつが言ってるのは昨日の夜、お菓子作りが得意な上の姉・明莉に簡単なお菓子の作り方教えてくれって頼んで、クッキーを作ったことだ。花鈴に加えて父さんと母さんにも揶揄われまくったけど、そんな恥ずかしさよりも和真の喜んでる顔が見たかった。 「味はよかったし、和真も喜んでくれるよ。まあ明莉姉が教えてるんだし美味しくて当然だけど」 「お前は教えてもらってもヘタだけどな」 「うるさい、ひと言余計!」 「二人とも、朝から喧嘩しないの!」  オレと花鈴の口争いを聞きつけて、朝ごはんを作り終えた明莉がエプロン姿を見せた。 「だって璃央が!」 「花鈴が!」 「予定あるなら早く朝ごはん食べなさい」 「「あ、はい……」」  ……姉の冷え切った笑顔ほど、怖いもんはない……    徒歩5分くらい先の和真の家に着いた。最近遊びに来すぎて和真の母さんはオレが来ることにすっかり慣れている。  トン、トン、と足音を鳴らして階段をのぼる。いつものごとく和真の部屋が近づくにつれて口角が上がっていく。ニヤニヤ締まらない笑顔はかっこわるい。深呼吸して表情を整えてから扉を開いているのは和真には秘密だ。 「はよ」 「おはよう、璃央」  小学校の時から変わらない勉強机に見合わないちょっといいイス。ゲーミングチェア?とか言ってたな。そこに座ってスマホゲームをしていた和真は顔を上げて笑った。今日もくそかわいいな、こいつ。  手に持ったクッキー入りの紙袋を持ったまま、引き寄せられるように横側から抱きしめた。せっかく表情を整えても、和真を目の前にしたら抑えられない。たぶん和真から見たらオレの顔は相当ニヤけてる。でもそんなオレを見ても和真は笑い返して、撫でてくれる。好きだぁ…… 「璃央、この手に持ってるのは?」 「ああこれな」  紙袋の中からタッパーを取り出して、蓋を開ける。中身を見た和真は目を輝かせた。 「えっ、クッキーじゃん! 璃央が作ったの!?」 「まあな。お前のために作ってやったぞ」  少しだけこっ恥ずかしい気持ちを隠しながら、ふふん、と胸を張ってみせる。 「ええ……なにそれ、嬉しすぎる……それに本格的だし」 「明莉に教えてもらいながらだけどな。アイスボックスクッキー?とか言ってた」  簡単なのがいいけど、ただ型抜いた普通のじゃ嫌だって言ったらこれになった。形整えるの難しくてちょっと市松模様が歪だけど…… 「食べていい?」 「朝メシ食ってないのかよ」 「食べたけど食べたい」 「しゃーねえなあ」  クッキーに伸ばされた和真の手を払いのけた。オレの言ってることとやってることがちぐはぐで、和真は間抜けにポカンと口を開けた。  クッキーを1枚掴み、和真の口もとに差し出す。「そういうことか」と和真は少し恥ずかしそうに呟き、ぱく、と咥えた。せっかく作ったんだ、オレが食べさせてやりたい。 「どう?」 「ん、美味い!」  もうひとつ食べたそうにクッキーに向けられた視線。その顎を掴んで唇を触れ合わせた。2枚目のクッキーよりオレだ。 「はは、クッキーの味する」 「そりゃそうだろ……つかもう1枚食べたいんだけど」 「食え食え。全部お前のだ」 「え、いいの!?」  そりゃお前を喜ばせるために作ったんだからな。  今日も昨日と同じく和真に引っ付きながらだらだらと過ごしていた。昼が過ぎた頃、唐突に和真と行きたいとこリストのひとつを思い出した。  ゲームをしてる和真の肩を揺さぶる。 「なあ和真、カラオケ行こーぜ」 「カラオケ……?」  和真は顔を青くして、全力で首を横に振った。 「無理っ! たとえ璃央でもパリピとカラオケとか無理! 璃央はシャレたバンドとか歌うんだろ!? 俺はアニメの主題歌とかしか歌えないからオタク丸出しで恥ずかしいし、そもそも歌下手だし!」  オタク丸出しとか今さらだろ。今も好きな女キャラ目当てに親愛度上げ?やってんじゃねえか。それ戦闘ゲームなんじゃないのかよ。まあ、そう言うと思ってたから実は作戦を考えている。オレは和真とカラオケに行きたい。恥ずかしそうに歌う和真とか絶対かわいいだろ。 「でもオレの歌、聴きたくね? カッコよーくシャレたバンドを歌うところ見たくねぇ?」 「うっ……」  和真がオレの顔を好きなのはわかってる。すり寄って上目遣いで見つめればイケる……!  和真は明らかに狼狽えて動揺している。 「オレ……和真とカラオケ行きたいんだよ。何の曲でもいいから和真の歌、聴きたい」 「う……うう……」  もうひと押し。いつか和真とカラオケに行くためにって、用意していた最終兵器の出番だ! 「和真の好きな……あれ、プリ●ュアの曲覚えたから歌ってやるよ。ダンス付きでな」 「行きます」  おい、即答かよ。これはオレにつられたのか、アニメにつられたのかどっちだ……自分で言ったのにも関わらず複雑。だがとにかくwinner、オレ。これから先もこの戦法で勝たせてもらうぞ和真!  気が変わらないうちに、さっさと和真の服を選んでやって、「フットワーク軽すぎる……」と呟いてるインドアな恋人を引っ張って街中へ出発した。  カラオケに入ろうとした時、4人組の男が店から出てきた。その中のひとり、見知った金髪が……! 「お? 和真と璃央くんじゃん!」 「なんでいんだ、一条鷹夜!」 「一条……とレグルス全員!?」  和真とほぼ同時に声をあげると、周りにいた男らもこっちに注目する。確かにこいつらレグルスか。ライブ行った時は一条鷹夜にガン飛ばしてたから、朧げにしか覚えてない。 「そだよ。次のライブの打ち合わせがてらね」 「なに、鷹夜の知り合い?」 「おう。こっちは和真で、俺らとおんなじ大学。こっちは別の大学行ってる璃央くん。和真の……うーん、飼い猫」  メンバーが「猫?」「猫?」と首を傾げる中、一条鷹夜をこっちに引き寄せて小声で怒りをぶつける。 「んだよ猫って! 恋人だっつの!」 「恋人は恥ずかしいからダメ!」 「和真がそう言うと思って飼い猫って肩書きにしたんじゃん」  ……そりゃ俺だって和真が嫌がることはしたくない。でも和真のことを考えて気を使ってくれたっていうのが気に食わない。和真を分かった風に言うな!  にこにこ笑う一条鷹夜を睨みつけていると、レグルスのひとり……青みがかった髪のやつが「あっ!」と声を上げた。 「ふたり、もしかしてこの前のライブ来てくれてた? 後ろの方にいなかった?」 「そういえばそうかも。暗かったけど男2人組って珍しいし、飼い猫くんがイケメンすぎて光って見えた」 「これは鷹夜に勝てるな」 「な、鷹夜が普通に見えてくる」 「俺をディスんなよ」  こいつら、ライブのMCの時と変わんねえな。 「俺らのライブ、どうだった?」 「いきなりそれ聞くのかよ」 「男からの意見聞きたいし~」  和真は……引きつった笑いを浮かべて若干オレの後ろに隠れてる。そりゃ和真から見たらこいつらはパリピ集団になるんだろうし早くこの場から離れたいだろう。オレが他所行き対応で相手してやるか。 「あー、すげえよかったです」 「マジ!? うれし~!」 「また機会あれば行きますね」  和真もうんうん、と頷いている。この流れで会話を終わらせて、さっさとカラオケに……  それじゃ、と和真の腕を引いたとき、ガッ、と肩を組まれた。 「俺もう一戦いってくるわ~」  オレを引き寄せた一条鷹夜は軽い調子でレグルスのやつらに言った。 「おっけ、んじゃあな」 「喉壊すなよ~」 「飼い猫くん怒らせんなよ~」  互いに手を振り合って、一条鷹夜のみ、ここに残った。 「……もう一戦って、オレらと!?」 「そうだけど?」 「ええ……バンドのボーカルと一緒に……!?」  和真は震え上がっている。ただでさえカラオケ苦手っぽいのにガチのボーカリストと一緒とか……和真が歌ってくれなくなる! 「お前はダメだ! 和真がビビって歌えねえだろ!」 「まあ和真はカラオケとか苦手そうだもんな」 「その通りで……」 「璃央くんになんか言われてつられてきたんだろ?」 「俺の好きなアニメの曲歌ってくれるって。ダンス付きで」  一条鷹夜はニイ、と笑ってこっちに向く。 「よし、行こ!」 「帰れ!」 「そんなの見たいに決まってんじゃん! 頑張ってダンス練習したんだね、健気でかわい~! 俺もけっこうアニメ曲歌えるし、俺の歌も聴きたくね? な、和真?」  だから、お前が行くと和真が歌えなくなるんだって……! 「確かに、一条の歌聴いてみたいな……」 「は!?」 「じゃあ決定!」  な……なんでこうなるんだよ!!

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