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集結ゴールデンウィーク③

「璃央!?」  反射的に叫ぶと、大量の荷物を抱えた璃央も驚愕の表情を浮かべていた。水戸も同じ方を向いて驚く。 「噂をすれば!」  立ち尽くして固まった璃央は俺と水戸を見比べている。感情と情報の処理が追いついていないんだろう。 「この状況まずいな。璃央から見ると俺たち二人でクレープ食ってるように思うだろ。下手したら俺ぶん殴られそう、はは」 「いや笑ってる場合じゃないって! 璃央ならやりかねない……」  もう一度視線を移すと、そこにいた璃央は消えていた。あれ、と目線を彷徨わす。 「和真ぁ!!?」 「わっ!?」  璃央の声がすぐ近くで聞こえた瞬間、重いものがのしかかった。璃央と、璃央が持っていた紙袋たちに覆われた。足が速いもんで、移動が一瞬すぎる。俺の顔を覗きこんでペタペタ触りながら、 「なん、おま、なんで、こいつと、いっしょ……今日、友達とって……う、嘘ついたのか、オレに……?」  青いような赤いような、なんとも言えない表情で途切れ途切れに声を震わせている。こんな璃央を見るのは初めてだ。相当動揺している。あ、璃央の大きい目がうるうるしてきて……な、泣きそうになってる……!? 「璃央待って、違うから! これには訳が!」 「こいつと仲良かったの、オレ、聞いてな……」 「けっこう離れてたのに、よくこっち気づいたなぁ」  けっこうな修羅場だってのに、呑気な水戸を璃央は睨みつけた。 「ったり前だろ! オレは和真察知検定1級だ!(!?) 大晴お前、なにオレの和真と一緒にクレープ食ってんだ!? オレだってまだ一緒に食ったことないのに!」 「お前、クリーム多くて甘すぎるからって食わないじゃん」 「クレープはシュガーバターがいちばん美味いんだよ! クリームないやつ!」  さっきまで震えて泣きそうだったのに、今度は急にキレてクレープ談議を始めた……もう自分で何を言ってるか分からないぐらい混乱しているらしい。 「璃央、とりあえず落ち着こう。ここ店だし……ほら深呼吸して」 「すー、はー、すー、はー……そうだな……和真それひとくちくれ」  璃央の口もとにクレープを持っていく。ひとくちかじった途端に眉がぎゅっと顰められた。 「甘ぁ……ってこんなんで落ち着けるかぁ! どういうことだ和真、大晴!」  なんで食べたんだろうか……しかも情緒がおかしくなって長めのノリツッコミまでしている。貴重だ。でも声はわりと控えめになってきた。 「誤解すんな、木山と二人きりじゃないから」 「あ? 大晴てめぇ、ヘラヘラしてんじゃねぇぞ。表でろや」 「水戸の話聞いてた!?」  近くのテーブルに荷物をドサドサと置いた璃央は水戸の胸ぐらを掴もうとしている。こんなところで騒ぎになったらまずい、止めないと! と、立ち上がった時…… 「あれっ、璃央? なんでいんの?」 「は、颯太!?」  三人がたこ焼きのトレイを持って戻ってきた。 「ほんとだ璃央くんだー!」 「沙羽と和真の友達1!」 「俺、番号で呼ばれてたの……?」 「なんだこの勢揃いは!」  璃央にこうなった流れを端的に伝えると、「んだよ、そういうことかよ……」と、大きなため息をつきながら俺の隣に陣取って座った。 「んでも、お前らだけ和真と茶ぁしばいてるとかずりいだろ! オレも誘えよ!」  怒るとこ、そこなんだ…… 「俺がいくら誘っても『和真と過ごすから~』って断ってきたくせに。今日もここで遊ぶって言ったじゃん」  璃央……俺と過ごすために断ってたのかよ……可愛いし嬉しいけど、颯太くんにはうちの璃央が申し訳ない、状態だ。  颯太くんはやれやれと肩をすくめて、たこ焼きをひとつ璃央の口に運ぶ。慣れてるのか、璃央は抵抗なくぱくりと食いついた。水戸は素早くスマホを取り出して動画を撮りはじめた。 「あっふ!」 「俺の誘いを断った仕返しだぁ~!」 「猫舌だなぁ」  大学でもこんなやり取りしてるんだろうな、と感じられる連携だ。悶えながらなんとかたこ焼きを飲み込んだ璃央は俺の水を取って飲み干した。 「……っはぁ……やりやがったなぁ……今日は姉らが荷物持ちしろってうるさかったんだよ。別にお前らとはいつでも遊べるだろ」 「璃央はなんだかんだ、家族のこと大切にしてるからな」 「大晴、余計なこと言うな」 「そういや、そのお姉さんたちは?」  聞くと、璃央は今思い出した、みたいな顔をしてダルそうにスマホを確認した。水戸とサーニャさんは「璃央くんってお姉さんいるんだ?」「そう、二人」「ぽい!」と話している。 「あー……めっちゃ着信入ってるわ。めんどくせぇけどかけ直しとくか」  かけ直した電話から、花鈴さんらしき声が漏れ聞こえた。 『璃央、あんたどこいんの!』 「急用できたから荷物持ちは終わりだ。オレが持ってるもんはちゃんと家まで持って帰るから」 『はあ?なにそれ? ねえ明莉姉、璃央が急用できたからって……ああ、確かにそうかも……璃央、和真にでも会った?』 「え!? ……っと、ちげーよ。そう、大晴に会ったから、一緒に飯食うことにした」 『ふーん……フードコートにいんの?』 「ちげーよ」  思いっきり嘘ついてる…… 『オッケー、そっち行くね』 「は!? なんでだよ!」 『和真に会いたいもーん』 「だから会うのやめろって言ってんだろ! おい!」  電話は一方的に切られたらしい。璃央はフーフーと息を荒げてスマホの画面を睨みつけている。俺に会いたいとか聞こえた気がしたんだけど……なんで、俺に……まさかシメられる? 「あいつら、こっち来るって……」 「へー! 璃央のお姉さん、会ってみてえ!」 「絶対美人さんでしょ~!」  颯太くんとサーニャさんは盛り上がっているが、俺は気が気じゃない。マジで璃央のお姉さんたちって、美人で強くて気圧されるから、何話していいか分かんねぇんだよ…… 「和真、逃げるぞ」 「え、でもお姉さんたちガッカリしない? てか怒られたり……」 「んなわけ。あいつら和真のこと気に入ってっから。だから会わすの嫌なんだよ。絶対変な絡み方してくる」 「でも……」  璃央の案にはすぐに賛成できない。璃央と付き合ってからお姉さんたちに挨拶のひとつもしてないし……ここで逃げたら璃央なしで会った時にもっと気まずいし……会わない方がのちのち面倒なことになる気がして…… 「でもでも、じゃねえ! 優柔不断!」 「す、好きで優柔不断してるんじゃないし、俺だっていろいろ考えてんだよ!」 「言葉にしねーとわかんねーよ!」 「俺は璃央みたいに思ったことすぐズバズバ言えない!」 「喧嘩しだした」 「止めた方がいいのかな?」 「あの璃央が木山と口喧嘩するなんて……進歩を感じるな……前まで遠くから見つめたり、木山に嫌われないよう努力して……」 「璃央くんてそんな感じだったんだ?」  苛立ち、音を立ててイスを引いた璃央は、俺の腕を引っ張った。 「いいから行くぞ!」 「ちょっと待ってって……」  その時だった。 「璃央~~!?」  この元気のいいギャル声は……花鈴さん! 声が聞こえたと思った頃にはもう目の前まで来ていて、俺と璃央の腕を引き離した。  璃央は、げっ、とものすごく嫌そうに顔を顰めた。 「てめ、来んの早すぎだ!」 「あんた、今逃げようとしてたよね! 和真の腕、乱暴に引っ張って……いじめてたんじゃないでしょーね!?」 「なわけねーだろ!」  久瀬家の姉弟喧嘩、久しぶりに見たな……相変わらず気性が荒い。でもよく喧嘩はするものの、普通に仲良いんだよな。仲直りが早いというか、言いたいこと言って後に引きずらないというか。  すると突然、花鈴さんの視線がこちらに向いた。

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