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集結ゴールデンウィーク②

 フードコートに着いた。  なるべく水戸とは二人きりで話したくないな、何喋っていいか分かんないし……と思ってた。それなのに。  他三人はたこ焼きの列に並びに行き……今、俺は水戸と二人きりでクレープを食べながら席取りをしている。居心地が悪すぎて無言でクレープを頬張るしかできない。何話せばいいんだよ、誰か助けて……! 「あ、まずは璃央とのこと、おめでとう」 「……!」  クレープをごくりと飲み込む。  やっぱり水戸に言ってたのか! 璃央のことだから隠さないんだろうと思ってたけど! それでも言われたらめちゃくちゃ恥ずかしい! 顔が熱くなる……! 「え、えと……あ、ありがと……?」 「あいつ、大学いる時もすげえ幸せそうだよ。まあこっちから見たら小さいことで悩んだり、細かいことに嫉妬してるけど」  目に浮かぶな……俺がその場にいなくてもそうなんだ。裏表がない璃央らしい。 「あんなに変わると思わなかった。俺が言うのもなんだけど、なんだかんだ長い間近くにいるからな。前までは楽しそうに見えても、なんか物足りなくて寂しそうにしてた。それが今は大違い」  確かに前までの璃央は、余裕があって澄ましながら揶揄ってくる印象だった。最近は感情が剥き出しで喜怒哀楽が激しいけど、幸せそうだ。 「一緒にいるからこそ、あいつが楽しそうだと嬉しいんだ」 「それは俺も」 「だから、璃央を幸せにしてくれてありがとう」  水戸はにこっと笑う。良い人だ。そう言ってくれるの、嬉しいな。まるで結婚式の祝福の言葉みたいだけど、じんわりきた……俺も璃央の力になれてるんだって…… 「あと聞きたいことあってさ、木山って猫好きなんだよな?」  なんでその話題なんだろ、璃央から聞いたのかなと思いながら、うん、と頷く。 「俺も好きでさ。実家で猫飼ってんの。写真見てほしくて」  水戸は機嫌良くスマホを操作し『猫たち』と名付けられたフォルダを見せてくれた。 「か、可愛い!」  三毛とキジトラ柄の猫2匹がずらずらと並ぶ。その中に…… 「待って、璃央がいるんだけど!?」  璃央の写真と動画がところどころに混じっている。机に突っ伏して寝てたり、ハンバーガーに齧り付いてたり、この前の猫耳めるちゃんメイドコスもある。自分の目がバグったのかと疑ったが、まごうことなき璃央だ。 「昔から璃央のこと猫っぽいと思ってて、最近それに拍車がかかってさ。実家の猫不足を璃央で埋めてんだ」 「わ、わかる! 仕草とか性格とか、猫っぽいよな!」  同感すぎて興奮気味に食いついてしまった……オタクっぽくて恥ずかしい……それでも水戸は引くことなく笑ってくれた。 「だよな。璃央が木山に猫扱いされるって話してて、この話共有したかったんだ。あと俺、こんな図体だけど可愛い小物とか好きで、特に猫グッズ集めんの趣味なんだ」 「へ、え……!?」  見せてくれた部屋の写真には大量の猫やゆるキャラのグッズが映っていた。ガチの量じゃん。こんな趣味があったなんて意外だ。 「意外って顔してるな」 「ゔっ」 「引いた?」 「あ、いや、そうじゃなくて、俺もグッズとか集めるの好きだし……むしろ親近感沸いた。もっと早く知りたかったな」  1軍だからって避けてた俺の先入観が良くなかった。もっと早く知っていれば昔から仲良くできてたかもしれない。 「そうだな。俺さ、信用できる人にしか自分の趣味の話しないんだ。好きなもの否定されたり馬鹿にされるの嫌だから」  その経験、何度もあるから気持ちは痛いほど分かる。水戸もそう思うことがあるんだ。また親近感。  ん、俺に話してくれたってことは…… 「俺に話してよかったのか?」 「木山は引かないだろ」  そう断言されるほど水戸と話した覚えはない。どうしてそう言ってくれるのか……謎。 「中学の頃、璃央が『好きなもの好きって言える方がすごい、そう言ってくれたやつがいた』みたいなこと言ってたんだ。だから璃央は自分の好きなものに自信を持つことにしたらしくて……それって木山のことだろ?」 「え……?」  そんなこと言ったっけ!? 「思い出せない……」 「でも璃央が影響されるの、絶対木山だろうし」 「そうかな。今度聞いてみる」 「うん、聞いてみて。俺、璃央にそれ言われるまで自分の趣味のこと恥ずかしいと思って隠してたけど……璃央に勇気もらって、救われだんだ。木山が璃央に言ったおかげで俺に伝わったわけだし、木山にも感謝してる」  め、めっちゃいい人じゃん、水戸! 1軍だからって避けててごめん! 「ずっと言いたかったこと話せてスッキリしたわ。中高の頃は璃央がピリピリしてたから、木山と話したくてもあんま話せなかったんだよな」 「ピリピリ?」  してたっけ?と首を捻る。水戸はうんうんと頷いた。 「あいつ隙あれば木山のこと見てたし、俺らのグループのやつや女子が木山と喋ったら、後から会話の内容聞いてきて、そのくせ理不尽にキレてくるし、放課後は絶対木山と帰りたがるし。他にもいろいろ。とにかく、俺らにはバレバレだったわけ」  璃央……そんなことしてたのかよ、初耳なんだけど。 「俺の前ではいっつもカッコつけてたけど……?」 「見栄っ張りだよな。まあそれ含めておもしろかったよ。中高のやつらが璃央と木山が上手くいったこと知ったら、宴だ!って夜通しカラオケでパーティーしそう」  はは、と軽く笑われた。発想が陽キャっぽいな…… 「璃央は正直でハッキリものを言うから一緒にいて楽なんだよな。それで今も一緒に行動してる。恋愛感情じゃなくて、尊敬って感じ。俺は沙羽ちゃんが好きなんだ。一目惚れ」 「そうなの!?」  一目惚れするタイプなんだ!? 彼女ぐらいいると思ってた。でもサーニャさんに惚れる気持ちは分かる……素であんなに可愛いもんな。明るくて性格も良いし、欠点なんて見当たらない…… 「初めて会った時の衝撃は忘れられないな。男って聞いた時には驚いたけど、可愛い子に性別なんか関係ないって思っ……」 「ん?」  いや待て、今ちょっと理解し難い言葉が混じっていたような…… 「えと、お、男って言った? 誰が?」 「沙羽ちゃん」 「ん?????」 「男だよ、沙羽ちゃん。本人は隠してるつもりはないみたいだけど」 「はぁ!?!?!?」  サーニャさんが、男!? あんなに可愛いのに、男!?  「やっぱ言われないと気づかないよな。俺も最初そんな感じの反応したな。璃央はすぐ見抜いてたけど」 「すげえ驚いた……ここ数ヶ月でいちばんぐらい……」  それこそ、璃央に告白された時ぐらい。あんな可愛い男の娘が現実に存在するなんて……この世界、侮れない…… 「俺はオタクじゃないし、コスプレのこともよく分からないけど、少しでも沙羽ちゃんと一緒にいたいんだ。数日前にあったイベントもついていって、沙羽ちゃんの欲しい同人誌のおつかいしたり」 「ほお……」  水戸から同人誌という言葉が出るとは。数日前……そういえばサーニャさんがコス写真SNSに上げてたな。 「昨日から三人でこっちに遊びに来てて、俺の家に泊まってもらったり。全部颯太と一緒だけどね。さすがに二人きりだと緊張するし」 「はー……そうなんだ……」  開いた口が塞がらないとはこのこと。さっきから意外なことばっかりだ。 「そう、そういう訳で男同士で付き合うとか、アニメとかゲームのこととか、木山には相談したいことがいっぱいあるんだ。これから仲良くしてほしい」 「も、もちろん! 俺にできることがあれば協力する!」 「ありがと」  水戸は少し恥ずかしそうに笑う。水戸がこんなに話しやすいとは思わなかった。今まで避けてたお詫びも含めて、できる範囲で協力したい。 「あ、そういやさっきサーニャさんが颯太くんのこと『ガサツで気遣いできないから願い下げ』って言ってたから、その逆がタイプなんじゃ?」 「なるほど。それなら俺は有利だな。けっこう几帳面だし気遣いもできる」  自分で言っちゃうんだ……! この自己肯定感、陽キャっぽいよなあ……! 「優しいな、木山。璃央がいつも言ってる通り」 「はは……」  真正面から言われると照れるな……あんま褒められることないし…… 「まあ璃央にはギャンギャン文句言われそうだけど」 「目に浮かぶな……」 「ここに璃央だけいないの可哀想だな。でもこんなところ見られたら怒り狂いそう」 「そうだなぁ」  璃央は今日、お姉さんたちとショッピングって言ってたな。荷物持ちに駆り出されたとか……  ふと、何となく気配を感じたような気がしてフードコートの外側……吹き抜けを挟んだ先の、ショップが並ぶ通路の方へ目線をずらす。  そこを璃央が歩いていて……引き合わせたみたいにバチッと目が合った。

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