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第四章 01
鬼鶏の足と獄の木の枝。二つの材料を手に入れた一行は、寂死林から北東方面に進み、森を抜けた先の小さな沢を渡り、獄楽畑を目指す。瀬那は相変わらず六花の背中で揺られている。絵海琉の美味しい味噌汁……のようなスープで体力を多少は回復したとはいえ、やはり自分はこの世界の住人とは違うのだと、要所要所で思い知らされていた。
(そういえば、地獄に来てどのくらいの時間が過ぎたんだろう。羅羽須さんには二度ほど霊力をもらったけど)
瀬那には時間の感覚がなく、さらにこの世界に夕刻はあっても夜がない。なのでこの世界に四十九日を超えて何日いるのか把握できていなかった。
「不安か?」
六花の手綱を握った羅羽須が瀬那の横に来て声をかけてくれる。どうやら憂鬱な感情が顔に出ていたようだ。勘のいい羅羽須には気づかれてしまった。
「あ、いえ……不安というか、この世界に来てどのくらい時間が過ぎたのかなって、ふと思ってたんです。四十九日はもちろん超えてますよね」
「とっくに過ぎているな。瀬那はこの世界に来てもう半年以上だ」
「え! は、半年⁈」
そんなに過ぎていたのか……と驚いた。とはいえ、ここでどれだけ時間が過ぎても、その時間を感じられない瀬那の魂はきっと歳も取らないのだろう。
「そんなに過ぎてたんですね。全く知らなかった……」
「魂の瀬那は時間感覚を把握できないからな」
気にしなくていいぞ、と羅羽須に言われる。しかしこの世界で瀬那が考えるべき問題について、この旅に出てから全く頭になかった。その問題を解決しないままこの場所に留まることを、羅羽須はどう思っているのだろうか。
――だがそなたは早く現世に帰れ。
お仕置きと称して二度目に体を繋げたときに羅羽須から言われた言葉だ。あのとき瀬那は嫌だと答えたが、それに対して羅羽須からの返答はなかった。だから本当の気持ちがどうなのかを、ずっと聞きたいと思っているのである。
「あ、獄楽畑が見えてきた!」
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