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 前方を指をさした絵理久が、先頭に立って走っていく。森を抜けるとその先に真っ青な絨毯を敷いたような花畑が広がっていた。丘の上も、その向こうにある丘も、すべてが青・青・青だ。どこまでこの花畑は続いているのだろうか。 「うわぁ、なんて綺麗なんだ」  瀬那は思わず感嘆の声をため息と共に漏らした。生きていたときだってこんなに美しい景色を見たことがない。  瀬那は六花から降りて花畑に踏み入った。青い花はネモフィラに似ている。花びらは五枚で中心部は白く、花びらの縁に向かって美しい青がグラデーションになっているようだ。小さな青い花たちは瀬那の膝よりも低い場所で咲いていて、風が吹くとさわさわと一斉に揺れ、まるでさざ波を立てる海面のように見えた。 「これが獄楽畑……」 「そう、極楽とは違う獄楽だからね」  音は同じだが字が違うからね、と絵海琉が念を押すように言ってくる。一番始めに遭遇した鬼鶏は凶暴で襲ってきた。獄の木は強風で体力を奪われた。次は一体どんな過酷なことが待ち受けているのだろう、と身構えてしまう。 「ここはとにかくみんなで探すしかないな。この中から一輪だけを見つけるなんて運しかないぜ」  絵理久がうんざりしたような口調で言う。危険がないぶん、時間を使って気の遠くなる作業をするということになりそうだ。でも誰も怪我をしたりしないならその方がいいなと瀬那は思った。 「気合いを入れてみしらぬ花を探そう」  自らを鼓舞するように瀬那は呟いた。少し開けた場所にやってくると、羅羽須が六花から荷物を下ろす。そこを拠点に横一列になってみしらぬ花を探すことになった。 「で、みしらぬ花ってどんな花なんですか?」  瀬那が羅羽須に聞くと彼は絵海琉と絵理久の方を見る。双子はお互いに顔を見合わせて、一斉に瀬那の方を振り返った。 「……?」  瀬那が小首を傾げると……。 「知らない」 「見たことない」 「さぁ?」  三人が揃ってその答えだ。瀬那はポカンとして三人を眺める。そして納得したのはその花の名前だ。

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