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「みしらぬ花は誰も知らないからそう呼ばれている」
「……あ」
瀬那は間抜けに口を開けたまま言葉を失った。見たこともない花をこの広大な花畑から探すなんて、なんて無茶なんだと瀬那は頭を抱える。
「とにかくよー、この花畑では青い花以外は咲かないはずだから、これと違うのが咲いてたらみしらぬ花なんじゃねーのかなって思ったんだけど。色が同じなら積んだけどな。花だけに」
絵理久が胸の前で腕を組みながら花畑を眺めて言ったあと、ダジャレのようなことを口にして、うきゃきゃきゃきゃ、と自ら笑っている。瀬那も思わず口元に笑みを浮かべた。しかしどう考えてもこの広さを四人で探すのはかなり骨の折れる作業だ。
「とにかく、探さないことには始まらない。だからまぁ、気長にやろう、瀬那」
瀬那の背中に手を添えた羅羽須がにこりと微笑んでいる。なにもしないうちから落ち込んでいても仕方がない、そういうことだ。
(僕がやる気を出さなくちゃ。じゃないと材料集めに付き合ってくれてる三人に申し訳ない)
広い花畑を眺めて瀬那は気を取り直し「よし!」と気合いを入れた。
一行は等間隔で横一列に並び、ゆっくりと丘の上に向かって探しながら進んでいく。青いネモフィラに似た花たちはみんな同じ顔をしていて、風が吹くと楽しそうに揺れた。
「この青い花はなんて名前なんですか?」
探す視線は下に向けたまま、瀬那は羅羽須に話しかける。
「この青い花は青極花という。地獄に咲く青い花という意味だ」
「案外、普通なんですね」
ふふふ、と瀬那が笑うと、右側から注がれるあまい視線を感じて頬がくすぐったくなる。それでも瀬那の目線は下に向けたままゆっくりと前進していく。
「みしらぬ花か~。青以外なら絶対すぐにわかりますよね。もしかしたら花びらが五枚じゃなくて六枚とか、もしくは四枚とか……そんなわかりにくい感じなのかなぁ」
「どうだろうな。誰も見たことがないしな。こんな広い花畑からみしらぬ花を探そうなんて者はいないさ」
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