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「絵理久、ありがとう。ここまでで大丈夫だよ」  そう言いながら瀬那が起き上がると、隣で絵理久も体を起こす。 「冗談だろ? なんのためにこの岩山を一緒に登ってきたと思ってるんだよ。ここまでって、すぐ降りろってことかよ」  冗談じゃねーよ、と鼻で笑われた。とはいえ、最後までついてきて絵理久になにかあれば大変なことになる。悩んだ瀬那は「このままここで待ってて」と何度も言ったが、絵理久は一緒に行くと言い張ってやはり聞かなかった。 「絵理久くんは強情だなぁ」  硬殻山の頂上で二人は巨鬼獄を探している。すぐに見つかると思ったが、頂上付近は意外と広くすぐには見つけられない。足元には岩に張りつく蔦のような草が這っていて、目の前には瀬那の背丈の何倍もある大きく尖った岩の塊がある。しかし、なんとその岩の裏側が洞窟になっていた。その洞窟を覗き込み「ここだな」よ絵理久が呟く。どうやらここが巨鬼獄の住処らしい。 「よし、行ってくる。絵理久はここで待ってて」 「わかった。一緒に行く」  会話は噛み合っていない。しかし強情な絵理久のことだから瀬那の言葉は聞かないだろう。やれやれと思いながら、二人は洞窟内に足を踏み入れる。中は広く、天井まで四メートル以上はあるようだ。洞窟内の壁は入り口は切り出した剥き出しの岩だったが、中へ進むごとに岩の表面は綺麗に整えられていた。足元は切り出された床石で、まるで宮殿の床を思い出させる。そこを歩くと二人分の足音が反響した。そのとき奥の方からなにかが迫ってくる気配がして、二人は同時に足を止める。 「お前たち、ここになにしに来やがった」  低く唸るような声が空気を震わせ、一瞬で瀬那と絵理久を震え上がらせた。一歩二歩とその気配が迫ってきて、目の前に瀬那の数十倍はありそうな大きな鬼が姿を見せた。  肌の色は黒く目は血の色のように赤い。側頭部からは金色の太い角が天に向かって伸びている。口の端から見えるのは尖った牙で、手や足の爪と同じく凶悪そのものだった。 「きょ……巨鬼獄、ですか?」 「そうだが、俺になんの用だ」  仁王立ちの鬼のぎょろっとした赤い目が、瀬那と絵理久を睨みつける。あまりの恐怖で膝が震えた。

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