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「深い谷の間を進んでいるみたいだね」
道の両側には何十メートルという崖が切り立ち、もし落石でもしようものなら避けきれないだろうと安易に想像できる傾斜だ。
「この辺は岩しかないらしいよ。こんなところによく住めるよな。正面の山は火山になってて常に毒ガスが出てるんだって」
「えっ、今からそこに行くんじゃないの?」
六花の足はまさにその活火山に向かって進んでいる。まさか目的地が火山だとは聞いていない。
「違うよ。俺たちが行くのはその手前の硬殻山だから平気」
「はぁ、よかった」
安堵したように息をつくと、瀬那の前に座っている絵理久がケタケタ笑う。なにか笑うようなところがあっただろうか。
「瀬那は魂なんだから、ガスを吸っても死にはしないさ。っていうか、実害があるのは俺と六花の方。でも目的地が火山ならそう言ってるよ」
「それも、そうか」
絵理久とのんきに話ながら六花を進める。山道は険しくなり、六花に乗ったままではもう登れない傾斜になった。瀬那たちは自分たちで歩くため、途中で六花から降りる。
「六花、ここまでありがとう、羅羽須さんのところに一人で戻れるね?」
馬を降りて六花の鼻面を撫でながら礼を言い、そのまま羅羽須のいる場所へ戻るように促す。人の言葉を理解したかのようにぶるるるっと小さく鳴き、六花は来た道を戻り始める。瀬那と絵理久はそれを見送って、目的の硬殻山の頂上を目指し始める。
岩山を登るのはかなり骨を折った。瀬那は体力がないし、絵理久は体が小さい。お互いに助け合いながらなんとか頂上まで辿り着く。
「はぁ、はぁ、はぁ……絵理久、大丈夫?」
「平気……瀬那こそ……大丈夫かよ」
最後の岩山を登り切ったその場所に、二人はゴロンと横になった。どんよりとした曇り空を見ながら、あまりゆっくりはしていられないがしばし休憩する。
この硬殻山の頂上のどこかに巨鬼獄がいて、それを瀬那が一人で説得して角の粉末を手に入れなければならない。
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