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第1話
「本日、被告人アルバート・ブラックを縛首に処す」
重苦しく落とされた言葉に、現実味がわかない。地面を見つめれば無機質なコンクリートの床と自分が着ている蛍光色の囚人服のコントラストがやけに眩かった。
23年の人生が今終わろうとしているのか。国でも有数のマフィアの幹部として最近成り上がり、ボスの腹違いの弟として家業に切磋琢磨していた。地位も名誉も女もこれからだったっていうのに。
死ぬのか、こんな安っぽい麻縄に首絞められて。
「言い残すことはあるか?」
神父の厳格な声が響く。言い残すこと、言い残す?
喉が締め付けられてうまく言葉が出ない。ヒュ、と変な息が漏れた。
「俺、」
「?」
「俺、死にたくないいいいいい!!」
この場にいる俺以外全員、キョトンとした表情。神父なんて顎がおこっちそうなくらい口を開いている。
「俺まだ23だし!兄貴達に比べて悪いことだってそんなにしてないのになんで俺ばっかなの!?二日酔いの日に警察が来なかったら俺だって逃げれたのに!無理無理無理、死にたくない!もうなんでもするから助けてホント!!靴舐めます!!」
嫌だぁぁぁぁ!と叫んでその場にうずくまった。涙と鼻水でぐっちゃぐちゃの顔面でも構わない。死にたくない。
「な、何を言っている!今までどれほどの罪を犯したと思っているのだ!」
神父、ブチギレ。看守、真っ赤通り越して青ざめた顔で俺をみている。俺が逆の立場でも多分おんなじリアクションする。
こっちは必死なんだけどね!
「警察の犬でもなんでもなるから命だけは助けてくださいヨォ!!」
ギャンギャン喚く俺を呆れた顔でみる青ざめた看守たちに無理やり立たされて布をかぶせられた。視界が真っ黒になって、余計に死が近づいていると実感する。
さっさと縄かけろ!という怒鳴り声と共に腕を引っ張られて前に進められた。本当に死ぬんだ、と喚きながらも諦めかけた時死刑室の扉がばんっと蹴り飛ばされる音が聞こえた。
「そのアホ犬、俺が貰っていく」
中世的な声にその部屋の人間の動きがぴたりと止まった。視覚が遮られているおかげで耳が冴えている。
「なっ、誰だお前は…!誰の許可を得てこの部屋に」
「許可なんかいらねぇよ、与える側だからな。お前達と話している時間が無駄だ、ハナ、そいつぶん殴って連れてこい」
「了解です」
「え、なに俺のこブゲフォ!」
俺のことですかと問う前に鳩尾にとんでもない衝撃が走った。視界がチカチカっと光ってそのまま俺の意識は本当の闇に沈んでいった。
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