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1.精子を出せ!

 昼休み、幼なじみの鏑木純也(かぶらぎじゅんや)から学食に呼び出され、話を聞いた俺は好物のハンバーグが喉につっかえた。 「大丈夫か、智直(ともなお)。水でも飲め」  目の前の眼鏡男は、真っ昼間の大学の学食で何を言い出すのやら。 「純也がいきなり変なこと言うからだろっ」  純也は黒縁眼鏡のブリッジを指で押し上げ、平然と言った。 「確かに、恥ずかしい頼みごとなのは承知してる。けど、教授の研究には精子が必要なんだ」  純也の話では、生物理工学部・遺伝子工学科の近城(きんじょう)教授が、ある仮説を打ち立てたそうだ。  “幸せの絶頂にあるカップルが最高に幸せなセックスをすると、知能指数、運動能力、病気に対する抵抗力などがずば抜けた良質な精子が出る”  精子はご存知の通り睾丸で作られ溜まっている状態なんだが、射精時に幸せを感じるホルモンが多いほど、精子の優劣に影響するとか。  水を飲んで落ち着いた俺は、純也に確認してみた。 「…それで、俺に精子を出せ、と…?」  純也は親子丼を食べながらうなずいた。 「そうだ。三種類のサンプルが必要で、自分の手でしたときと、恋人ではない誰かの手でしてもらったとき、恋人とのセックスで出た精子をそれぞれ」  またハンバーグが飯ごとつっかえそうになり、俺は慌てて味噌汁を飲む。 「待てよ、俺に恋人なんかいねーの、お前も知ってるだろ」  俺は生まれてこの方、彼女なんかできたことがない。それは純也も同じで、近所に住んでて幼稚園のころからダチである俺たちは、あまりにもいっしょにい過ぎたせいか、今まで彼女ができたことはおろか、片思いの初恋すらない。 「それも承知だ。もしかしたら、この広いキャンパスでしかも共学だから、彼女ができる可能性があるだろう」 「研究一辺倒で彼女もほかの友達もいないお前に言われたくねーよ」  …まあ、それは俺も似たようなもんだが。俺は純也とは同じ大学だけど、社会学部にいる。やや男子が多いが、特に仲がいい友達はいない。普通にしゃべったりするが、遊びに行ったりとかはない。無論、合コンのお誘いもない。  この大学に入って二年目だが、相変わらず俺は純也といっしょにいる。純也はそれに加えて遺伝子の研究ばかりしていて、やはり俺以外に特に仲がいいというヤツもいない。 「研究室の隣に資料室がある。そこにパソコンとエロ本がある。ドアと壁には、防音シートを貼ってあるから音は気にするな」  なんだかもう、俺が協力する話になっているんだが。でも、エロ本エロ動画見放題はちょっと魅力だ。 「サンプル一回につき、ラーメンか何かおごってやる」 「マジか!」  かくして俺は、午後の講義終了後に、学内でオナニーをするはめになった。  初めて来る生物理工学部の研究棟。純也に教えられた通りに通路を進み、指定の部屋へ。  ノックをすると、白衣姿の純也が出てきた。 「悪いな、変なこと頼んで。あ、近城教授に紹介するよ」  理系の教授は気難しいハゲと、しかつめらしい眼鏡ばかりというイメージがあったけど、近城教授は白髪が混じった温厚そうな、小太りのおじちゃんだ。 「君が横井くんだね、ご協力感謝するよ」  やや背中が丸まった白衣姿の近城教授は、にこにこ笑いながら右手を出す。 「あ、よ、よろしくお願いします」  緊張気味に握手をすると、白衣にマスク、薄手のゴム手袋の純也から太めの試験管を渡された。 「さっそくだけど、隣でサンプルを取ってほしい」  噛み砕いて言うと、“隣でオナニーしろ”。今さらながら恥ずかしくなってきたが、純也について隣の資料室に入った。  ドアの内側と壁全体、窓を覆うように黒っぽいウレタンが貼られてある。この防音シートは、純也が全部貼ったらしい。近城教授じゃ、体力と身長的に無理だろう。純也なら背が高い。  スチール製の棚や木製の本棚でいっぱいの部屋の奥には、スチール製のデスクがあった。パソコンと、エロ本数冊が置いてある。その前には座り心地がよさそうな布張りのソファーと、ティッシュ一箱、ウェットタイプのティッシュも一箱。 「市販のディスクがあるが、好みでなければ無料の動画をネットで探してくれ。ブックマークにある。くれぐれも有料動画を間違って見ないようにな」  なんだか指示されてオナニーするのは、超恥ずかしい。 「あ、あのさ…純也」 「何だ?」 「俺がシコってる間…お前、隣の部屋にいるんだよな」  白衣の眼鏡男は、表情一つ変えずにうなずく。マスクしてるから口元は見えないが、こいつは普段からあまり表情が変わらない。 「ああ、そうだが。何だ、ここにいてほしいのか?」 「ち、ちげーよ! お前隣で“ああ今ごろ智直がエロ動画見てオナってんだな”とか考えるだろっ。それが恥ずかしいんだよっ」 「気にするな。俺もこの部屋でサンプルを取った」  何のフォローにもなってないが…。 「じゃあ、純也のオススメって何?」 「映像なら、この辺りかな。ネットの動画なら、ブックマークにあるサイトが、ジャンルが豊富だ。“巨乳”でも“レイプ”でも“SM”でも、好きなタグで検索しろ」  こいつ、真顔でよくそんな話できるな…。 「じゃあ、俺は隣にいるから、精液はその試験管に入れてコルクで蓋をして、なるべく十分以内に持ってきてくれ」  純也は研究室に戻った。一人きりになり、俺はジーンズを全開した。 「ああ、何か用があれば呼んでくれ」  いきなりノックもせずに純也が顔を出し、俺は恥ずかしい格好で顔から火が出そうだった。 「わかったよ! わかったから、いきなりドアを開けるな!」  まったくあいつは…。まさかシコってる最中で覗きにこないよな?!  下着ごとジーンズを膝まで下ろし、とりあえず何冊かある本を見てみる。まあ、期待はしていなかったが、やっぱり修正はあるよな。  おお、漫画がある。そういや、あいつが勧めてくれたディスクはアニメだったな。俺が漫画好きだと知っているからだな。  漫画の本を開いてみた。エロそうなシーンが出るまで、ページをめくる。  《いやっ、お兄ちゃんやめて》  セーラー服をめくり上げられて、おっぱい全開の妹がお兄ちゃんにイタズラされてる。  《嫌がるわりには、いやらしい汁がいっぱい出てきたぞ》  くちゅっくちゅっ。  《ああん、お兄ちゃんの意地悪ぅ》  おお、これはかなりキタぞ!  エロ漫画はめったに読まないが、こういうのもいいな。しかしこの本、純也が買ったのか? まさか、近城教授のコレクション…?  結構下半身にきた。硬くなりかけたペニスを扱く。早くもガマン汁が出てきた。くちゅっくちゅっ。妹のマン汁の音みたいだ。さすがにこの挿入シーンのパンッパンッていう音は再現できないけどな。  さて、すっかり硬くなったところで、やっぱり動画で抜きたいよな。アニメを再生してみた。  《は、はい。ご主人様》  親の借金を肩代わりしてくれた大金持ちの男の元で、メイドとして働くことになった女の子。メイド服を脱げという命令。  下着姿に、ガーターベルトとストッキング。ひざまずいてフェラチオしろと命令された。  《うっ…うぐっ》  涙目でチンコくわえるその表情は、はっきりいって三次元よりそそられる。モザイクが邪魔だ。  今度はオナニーしろと命じられた。女の子はパンツを脱ぎ、ローターを入れて悶える。  《はあっ…いやっ、感じちゃう》  最初は抵抗していたメイドさんだが、しまいには“ご主人様、もっといじめて”なんて淫乱化している。こんなの、モテない男の夢だよな。現実には、好きな相手じゃないと、嫌悪だけで何も感じないって。  ぬるぬるのアソコにご主人様が挿入。腰の動きが早くなり、俺の手も自然とピッチを上げる。呼吸が荒くなるのがわかる。防音シートが無ければ、俺の息遣いが研究室に漏れていたかもしれない。  ご主人様がメイドさんの顔にフィニーッシュ! ってとこで俺も――ヤバい、試験管に取らないと。  太目だから一滴も漏らさず、俺の精液は全部試験管の中におさまった。急いでコルクを閉めて、DVDを止め、先っちょをティッシュで丁寧に拭うと、ひと仕事終えた分身をしまった。  恐る恐る、ドアを開ける。 「出たのか?」  純也の声に、飛び上がるほど驚いた。そんな聞き方ないだろ。 「う、うん」  試験管をそっと差し出す。純也は相変わらずの真顔で幼なじみのザーメンを受け取り、シールをぺたりと貼った。俺の名前と日付、それに“No.1-01”と書いてある。 「この下の番号は何だ?」 「No.1というのは、自分の手で出したケース、01は一回目という印だ」  一回目。ということは、俺は何度もあの部屋でシコらなければならないのか。そのうち慣れてしまって、恥ずかしくも何ともなくなってしまいそうで怖くなる。  教授に礼を言われ、俺は純也の作業が終わるまで、中庭で待っていた。後でラーメンをおごってもらうからな!

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