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2.互いの手で精子を出せ!
大学の近くにあるラーメン屋は、学生がよく利用する。俺はここの味噌バターラーメンが好きだ。味卵もつけてもらった。
「智直、明日はバイトか?」
眼鏡を曇らせ、チャーシュー麺を食べながら純也が尋ねた。
「うん、明日と明後日はバイト…ってか、土日も研究の手伝いしてんのか?」
「助手が必要な場合だけだ。じゃあ、月曜は空いてるな」
味卵を頬張り、うん、とうなずく。
「じゃあ、その日はNo.2のサンプルを俺と取るから、協力してほしい」
No.2? 俺と?
「他人の手でしてもらったときの精子だ」
何? つまり…。
「俺と智直が互いに擦るんだ」
んぐっ!
味卵が喉につかえそうになって、慌てて水を飲んだ。今日、二回目だぞ。
「や、やだよ、純也とそんなこと」
声はひそめているもの、まわりに聞こえないか心配だ。
「俺のNo.1も冷凍保存してある。比較するには三種類の精子が必要なんだ。まあ、俺たちは恋人がいないから、No.3は難しいが」
「No.3…ということは、恋人との…アレで出た…」
そうだ、と純也は麺をすする。
それは現在、採取不可能だとしても…いくら幼なじみでも、互いにコキ合いなんてしたことがないから、No.2とやらは抵抗がある。
「そのNo.2ってやつは、好きな相手じゃなくても構わないのか?」
「自分の手との比較がいるんだ。その上で、No.3と照らし合わせたとき、No.2とNo.3で状態が同じならば、教授の仮説が成り立たなくなる」
いったいどういう状態なんだろうか。あのオタマジャクシが“ハッピー! イェー!”とかはしゃいでるんだろうか。
純也はスープを飲み干すと、曇った眼鏡のまま頭を下げた。
「頼む、ほかに頼めるやつがいないんだ。教授も元教え子や甥の夫婦とかに頼んでいるんだが、なかなか承諾してくれる人が少なくて」
…だろうな。カップルや夫婦ならNo.2、パートナー以外の他人の手っていうのは嫌なんだろうな。
そう聞くと急に気の毒になってきた。
「この研究で成果が出れば、優秀な人材が育つ上に、先天的な病気も防げるかもしれない。幸せな状態を維持するため、夫婦仲もよくなり離婚率が下がるかもしれないんだ」
そりゃあ、人類にとって素晴らしい研究かもしれないけど…。
「月曜は、帰りにカレーをおごってやる」
というわけで、俺は純也と互いに扱き合いをすることを承諾した。
月曜日、午後の講義が終わってから、例の資料室に来た。純也に二本ある試験管のうち、一本を渡される。
「智直、オカズは何がいい?」
「この間、純也が勧めてくれた漫画とアニメのやつ、あれ結構よかった…けど、もしかしてお前が用意したのか?」
「教授に、若い人が好みそうなAVやエロ本を用意してくれと頼まれたんだ。教授が費用を出して、俺がネットで買った」
ディスクを物色する純也に、俺は聞いてみた。
「お前さあ、自分でもサンプル取ったって言ってたよな。どれで抜いたんだ?」
「この本とDVDだ」
純也が選んだのは、巨乳の外人さん。こいつ、洋物が好きなのか。
「意外~っ。お前、こういう趣味だったのかよ」
と、幼馴染の意外な一面を知ったところで、純也はいきなり白衣を脱ぎだした。
「うわっ! 何すんだよお前!」
「何って…白衣が邪魔になる」
ああ、そうか。別に全裸になるわけじゃないよな。俺だけ焦って恥ずかしい。
「またアニメがいいか?」
「うーん…実写も見てみたい」
「好きな傾向は? 巨乳とかロリとか」
「別にどれでも…。あ、挿入もいいけど俺、フェラとか女の子がオナってるのが」
まあ、純也がからかいながら言うなら俺もすんなり趣味は話さないが、こいつは研究のために真剣だ。俺の嗜好を聞いても笑ったりはしない。だから俺も正直に話せる。
「わかった、探してみる」
パソコンに映像が流れた。純也が俺の隣に腰を下ろす。…なんだか緊張してきた…。
ベルトを外す金属音、ジッパーを下ろす音。それが気になって画面に集中できない。
「お前も早く出せ。試験管は持ってるな?」
「あ…うん」
仕方なく、俺も下半身をあらわにする。
「最初は自分で硬くしろ」
なんていいながら、純也は自分のモノを擦ってる。他人のオナニーなんて見るのが初めてで、最初はなかなか手が伸びなかった。純也の呼吸が少し乱れたのを聞いて、俺もやっと擦り始める。
AVは実写のメイドさん。欲求不満のメイドさんはある日、ご主人様と奥様のセックスを、ドアの隙間から目撃してしまう。メイドさんは誰もいないリビングの片隅で、オナニーに励む。おっぱい揉みながら、あんあん喘いで。広いお屋敷だから、声なんて届かない。そのうち濡れたパンツを脱ぎ捨てて、指を突っこみ激しく抜き差し。
「ひゃっ?!」
「充分硬いな。お前の手を貸せ」
純也にいきなり握られた。それも驚きだが、純也は俺の手を取り、自分のモノに握らせる。俺の手が離れないように、上からガッシリとホールドされて。
他人の手って、こんな感じなんだ。その俺の意志に関係なく動く手は、くびれをギュッと握ったり、サオを下から強く擦りあげたり…クソッ、やけにうまいなこいつ。俺と同じく右手が恋人の純也だが、ヤツの恋人は俺の恋人よりテクニシャンだ。
負けじと俺も強く擦ってやる。その鉄仮面をはいで、アヘ顔を見てやるぞ。
画面は、オナニー中のメイドさんが、ご主人様に現場を見られたシーン。
《おや、いけない子だね》
ご主人様の目の前でのオナニーを命じられた。
《あっ…そんなに見つめられては…恥ずかしいです》
《じゃあ、次は僕にご奉仕してもらおうか》
メイドさんにフェラチオを命じるご主人様。
《んうっ…ん…》
人の口って、やっぱ気持ちいいのかな。挿入って、ぶっちゃけ動物でもするけど、フェラっていうのは人間ならではのプレイだから、より一層興奮する気が。
そうだ、隣の鉄仮面はどうだろう。かなりガチガチで先走りも出てるけど。チラッと顔を見ると、目をうっすら開けて、口も半開きで、頬が少し赤い。
「あ…」
小さな声が出た。何だよ、色っぽい表情するじゃんかよ。
…何…今、ドクンッて下半身に来た。純也の色っぽい顔でか? まさかな。
純也も興が高じてきたのか、扱き方がいやらしさを増している。鈴口を撫でて先走りを取り、サオに塗りつける。
「あふっ…」
しまった! 俺が声を出してしまった。
その声に反応してかどうかは知らないが、純也がいきなり左手で俺の頭を引き寄せた。あいつの肩にもたれかかる形で、見上げればあの色っぽい顔が間近にあるし、ツバを飲んだときの喉仏の動きまでハッキリわかる。
もう、画面なんて見ていない。俺は夢中で手を動かした。純也も猛スピードで俺を擦る。他人の手が気持ちいいなんて。オカズもなくイケるなんて、信じられない。
「やばっ、純也、出るっ」
亀頭に試験管を当て、勢いよく飛ぶザーメンを受け止めた。急いで蓋をすると、いきなり抱きしめられた。
「俺もイキそうだ…思い切り擦ってくれ」
抱きしめられたまま、純也に負けない猛スピードで擦っていると、左手を取られた。
「ここも触ってくれ」
硬くなった陰嚢を握らされた。純也はオナニーのとき、ここも触るのか。しかし、幼なじみに抱きしめられ、その幼なじみの陰部をいじってるなんて、変なシチュエーションだ。妙にドキドキする。あいつが変な声を漏らすし。
「うっ…」
純也が試験管を用意する。亀頭に当て、出たもの全てを中におさめる。急いで片付けをして、白衣を着終わった純也に、試験管を渡した。
「ありがとう。また、作業が終わるまで、どこかで待っててくれ」
ほんの少し赤くなって、眼鏡の奥の目は少し細められて、はにかんだような笑みを向ける。普段は無表情のくせに、そんな顔すんなよ。なんか、変な気分になる…。
その日はインド料理店でキーマカレーやナン、チキンティッカとサラダが乗ったプレートを食べた。
「智直、次はいつ空いてる?」
次、と聞いてドキッとした。資料室での擦り合いを思い出してしまう。純也の感じてる顔、初めて見る勃起したペニス。カレーのせいで体が熱いけど、あのときの記憶に余計汗をかいてしまう。
「つ、次ぃ?! あんまり日が空いちゃだめなのか?」
純也は豆のカレーをナンですくう。
「別に頻繁に取らなくてはいけないということはないが…。あまり回数が多くてつらいなら、週一程度でもいいぞ」
「基本、月曜と金曜はバイトもないし、特に用事ないからいいけど」
「そうか、なら今週の金曜日――そうだ、ネットで注文した物が明日あたり届くから、それを使ってくれ」
キーマカレーをすくっていた俺は、手を止めてしまった。
「ネットで…っていうと、また漫画かDVDか?」
「いや、違う。教授に“自分の手でも、いつもと違う刺激で新たな快感があれば、精子の状態は変わりますか”と聞いたら、ぜひともサンプルを取って比較したい、と言うから」
「…ってことは、何か妙な物なのか?」
純也は一瞬含み笑いをしただけで、何を買ったのかは教えてくれなかった。
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