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6.とにかく精子を出せ!

 侵入してきた指はゆっくりと身を引き、また奥へと進む。少し慣れたかなと思うころ、指は途中で曲がる。ホント、いやらしい動きをしやがって。 「あ…純也…きつい」  強く目を閉じたら、涙がにじみ出てきた。純也が優しく抱きしめてくれて、目尻にたまった涙を吸い取ってくれる。泣くたびに、こいつはこうして吸い取ってくれるのかな、なんて女々しいとは思うけど、それに甘えてしがみついてしまう。 「挿れるぞ」  純也は俺の足を持ち上げ、亀頭を押しつけてきた。あのときは擦るだけだったけど、今度は入るんだな。ちょっと怖いかも。 「待て、純也…やっぱきつい」  肩の力は抜けても、肛門は強張ってしまう。足が震えて、つってしまいそうだ。  そんな俺の緊張をほぐそうとして、純也は俺のペニスを優しく扱く。 「ふぁっ…」  濡れた鈴口を指先で撫でられ、一気に全身の力が抜けた。その瞬間に、純也が俺の中にズブズブと侵入してくる。 「あ…、くっ…」  痛みと圧迫感に耐え、純也が奥まで入るのを待つ。セックスって、気持ちいいはずだよな? 最初だけがこんなに苦しいのかな。 「好きだ、智直」  そのシンプルな一言が、俺を変えた。下半身に一気に血が溜まる感じがして、もう離れたくない気がした。  そうだ、幸せの絶頂にあるカップルの最高なセックス、今まさにこれがそうなんだ。俺たち、いいサンプルになりそう。 「純也…俺も、好き」  多分、抱き合ってないと言えそうにもない言葉を、しがみついたまま純也の耳にささやいた。  純也がゆっくり腰を動かす。その動きに合わせ、ペニスを扱かれる。緩慢だった動きは、やがて速度を増していく。最高だ、純也とこうして繋がっているなんて。痛さが徐々に引いていく感じがする。好きな人と肌を重ねることは、単なる性欲の処理なんかじゃない。目が潤んで、頬が紅潮して、感じている表情の純也を見ていると、もっと気持ちよくなってほしいと思う。 「智直…俺、もうイク…」  純也は試験管を手に取ると、腰を引いて精液を採取した。あのわずかな白い液体の中で、無数のオタマジャクシがはしゃいでいるのだろうか。彼らははしゃいだまま、冷却装置の中で眠りにつく。  大きく肩で息をつくと、 「お前には、俺の口でイッてほしい」  と、俺のペニスをしゃぶり始めた。微妙に当たる歯、いやらしく蠢く舌。もう、萌絵ちゃんはいらない。『エッチな幼なじみ純也のお口』で愛され続けたい。 「はあっ…純也…も…出るぅっ」  純也は口を離すと、俺の鈴口に試験管を当てた。さっきまでいやらしい行為をしてただけに、そんな事務的な作業まで、まるで変態プレイみたいに思えてくる。  俺たちのNo.3、幸せの絶頂にあるカップルの最高なセックスによるサンプルは、無事にこうして採取できたのであった。 「うまっ、今日はハンバーグ定食に奮発して卵つけてみたけど、最高~」  ハンバーグ定食には、プラス三十円で目玉焼きを乗せてもらえる。三十円で“奮発”と言うのはどうかなと思うけど。ハンバーグの上の半熟目玉は、ハンバーグのソースと絡まって、実にいい味を出している。ただ、卵を焼いただけなのに。鶏ってすごい。純也もせっかく生物理工学部なんだから、卵の研究して、うまい卵料理を食わせてくれればいいのに。 「俺にも一口くれ」  俺の向かい側で、真顔で言う可愛げのない純也に、箸で一口切って食べさせてやる。 「純也も中華丼くれよ。あ、うずら卵な」 「うずら卵は二つしか入ってないからダメだ」 「ケチ~」  と、俺も純也のレンゲで中華丼を一口もらう。  男二人で何やってんだろうな。まあ、俺たちは小さいころからずっといっしょで、よく飯も食ってるから、周囲も変に思わないだろう。変わったことといえば、週に一回か二回程度ヤッちゃうぐらいかな。 「智直、俺たちのNo.3のサンプルが、それぞれNo.1と大幅に違うというデータが出たんだ」  つまり、自分の手でするのと、好きな相手とエッチするのとでは、精子の状態が違うということ。 「そっか~、おめでと! これから研究が進むと、優秀で健康な人材が増えるんだな」 「ただ、問題があって」  純也はうずら卵を食べると、ため息をついた。 「俺たちのNo.2とNo.3が、あまり違いがなかったんだ」  No.2は自分以外の誰かの手によるもの、ということは…。 「じゃあ、俺たちが…その…、そういう関係だから、互いの手もヤッちゃうのも、違いがないと?」 「ああ。好きな相手だから精子の状態が違うのか、自分の手じゃないから違うのか、はっきりしなくなる」  なるほど。それでは研究の意味がなくなる。かといって、好きでもないほかの人に扱いてもらうのは抵抗がある。だが、互いの手でした№2と、セックスで出た№3の状態が同じとは…もしかしたら、俺たちは気づいていなかっただけで、最初から友達以上の感情があったのかな…。 「俺たちじゃ、もうNo.2は採取できないってこと?」 「そうなってしまうから、実はロボット工学科の方に、あるロボットを製作してもらってる」 「ロボット?」  ご飯をかきこみ、豆腐の味噌汁を流しこみながら、俺は聞いた。 「手のロボットで、こんなふうにペニスを握らせて、手を上下させるんだ」  ぶっ。ご飯粒鼻に入っちゃったよ。こんな所で、いやらしい手つきなんかすんなっ。  むせてしまった俺に、大丈夫かと純也が水の入ったコップを渡す。大丈夫じゃねーよ。最近、純也と穏やかに飯が食えない。 「恥ずかしいやつだな! そんなもん頼んだのかよ!」 「シリコン製の手袋をはめて、ローションを塗って使えるようにして、強弱をつけて握ったり擦ったり」 「で…それを俺たちが使うのか?」 「当たり前だ。そうでもしないと、No.2が採取できない」  そりゃあ、俺も純也以外のやつに触られたくないし、純也のもほかの誰かに触らせたくないけど。 「けど…そんな機械でイケるかなあ」 「これが成功すれば、手の怪我や寝たきりの患者が、欲求不満の解消に使える。ラブドールを使う風俗店があるらしいが、同様に性病の心配もなく、もっと上を行くハイテクノロジーな風俗店も夢じゃないと、ロボット工学科も張り切ってる」  今度は水を吹き出しそうになった。 「理系は向学心に燃えてるのは結構だけど、羞恥心ってのはないのかよ」 「研究のためなら、羞恥心とか言ってられないからな。できあがったら、智直もぜひ使ってくれ」 「う~ん…」 「焼き肉連れて行ってやるから」  また引き受けてしまった。俺の弱点を知りつくした幼なじみであり恋人の純也と、これからはどんな体験をするのやら。不安になりながらも、ちょっとは好奇心が勝ってしまう、文系の俺だった。 ――――

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