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5.No.3の精子を出せ!

 俺は怖かったんだ。あのとき、あいつの手や、キスや、素股が気持ちいいって思ったことが。また、同じようにサンプルを取るとしたら、今度はもっとエスカレートするんじゃないか。そしたらもう、純也を友達とは見られない。  純也は終わった後、真顔で俺に接する。あいつにとっては、俺はただのサンプルだ。それ以上でも以下でもないんだ。ただ、番号がついたシールを貼られた、データの一つに過ぎないんだ。  俺ばかりが妙に意識してるみたいで悔しい。俺はもう、あいつに協力できない。  次にあいつと話すときは、もう協力は断ろうと決意した。  そう決めた途端、純也からメールが来た。今、講義中だろ。 《明日の金曜日と、次の月曜日は空いてるか?》  俺はすぐに返事をした。 《悪い、もう協力はできない》  …怒るだろうな…。中途半端なデータしか取れないだろうし。そうだ、俺はあいつのデータなんだから。  講義が終わってから、純也から返事が来る。それを見た俺は、思わず声を上げそうになった。 《そうか、俺も悪かった。これからは、この間サンプルを取ってくれた遺伝子工学科のやつに手伝ってもらうから、智直は気にするな》  気にするだろ! これから純也は、もう一人の協力者と――あんなエッチなことするのかよ! 互いに擦り合ったり、キスしたり、素股したり――  そんなの嫌だ!  俺は教室を飛び出すと、生物理工学部の研究棟まで走った。  俺ってバカだ。ここに純也が来るのは、放課後のはずだ。それに、毎日教授の手伝いをしているわけじゃない。部屋の中は暗く、ドアに鍵もかかっている。  俺は崩れるようにドアを背にして、膝を抱えて座った。  腹減った…今は昼休みだ。はあー…。ため息しか出ない。 「智直!」  廊下に純也の声が響いた。あいつがこっちに向かって歩いてくる。 「純也…」 「何でこんな所にいるんだ? 忘れ物でもあったのか?」 「お前こそ何でだよ」 「俺は課題のバインダーを研究室に忘れたんだ」  純也が鍵を開けて中に入る。窓から入りこむ日差しは明るく、電気をつけなくても目当てのバインダーはすぐ見つかった。 「で、お前はどうしてだ? もう協力はしないんだろ?」  やっぱり、ちょっと怒ってるかな…。だから、俺がイライラするのは、お門違いだってわかってる。わかってるけど、我慢ができない。ついでに、うまく伝えることもできない。どう言っていいかわからず、気づくと俺は涙を流してた。 「…智直…いったい」 「純也! ほかのやつに、あんなことをするな!」  純也が眼鏡の奥で、目を丸くしている。 「か…勝手なのはわかってるけど…。でも、純也がほかのやつとあんなことするぐらいなら…!」 「智直がしてくれるのか?」  そこでハッと気づいた。俺は何を言おうとしたんだ。 「…その…」  首を縦には振れない。 「純也には、俺はただのサンプルの一つでしかないから平気だろうけど…お、俺はあれからお前の顔もまともに見られなくって」  今でも純也の顔を見られない。無表情で見下されているんじゃないかと思うと…。 「すごく恥ずかしくて…けど、お前は平気な顔してるから…俺ばっかりが意識してんの、何か嫌で…」  純也が右手を振り上げた瞬間、とっさに目を閉じてしまった。純也の手が、俺の髪を乱暴にかき回す。 「ただのサンプルなんかに、俺がキスすると思うか?」  純也――今、何て? 「ごめん。俺は智直に嘘をついていた。同じ学科のやつにサンプル採取は頼んでいるが、No.2――互いの手で出すのは、そいつが風俗店に冷却装置を持って行って、してくるらしい」  えっ…じゃあ、そいつと擦り合いするわけじゃないのか。 「しかもあいつは彼女がいるから、No.3も採取できる」  風俗店は彼女にバレないように行ってもらわないとな、と純也は苦笑いする。 「なんで…嘘なんて…」 「大きな賭けだったんだ。カマをかけてみて、もしもお前がそのまま俺のことを放っておけば、脈無しだなと思うことにした」  こいつめ…俺を試したんだな。 「けど、止めに来てくれたから、俺のことを気にしてくれてるんだ、という解釈で…いいよな?」 「うっ…」  うん、と言おうとして止まってしまう。顔が熱い。目の前の純也も、なんとなく赤い。 「俺は、智直が好きだ。お前以外のやつと、あんなことは絶対にしない」  少し照れた赤い顔は、すぐ真剣な表情に戻った。 「…何だよ…馬鹿やろ…」  情けなくってまた涙が出てきた。純也の両手に頬を包まれ、流れる涙を唇に吸い取られた。 「で、智直の気持ちは?」  俺は目をそらして言った。 「純也と同じ」 「同じじゃわからない」  何だよ、ムカつく。さっき俺のこと好きって言ったくせに。 「じゃあ、純也も俺に対しての気持ちがわかんないのかよっ」 「愛してる」  そんなことを臆面もなく言われ、俺は返事に困った。  両頬を挟んだまま、純也は俺の顔を覗きこむ。 「俺には言ってくれないのか?」  言葉が出ずに、キスで返事をしてやった。実際には、乱暴に唇をぶつけただけなんだけど。 「これが答えだ!」  ぐえっ。急に息苦しくなった。こんな乱暴な告白でも、純也は俺を強く抱きしめて喜んでくれた。 「よし、俺たちもNo.3を採取するぞ!」  No.3、つまり、幸せの絶頂にある恋人たちが、最高のセックスで出した精子。 「い、今からかぁ?!」  純也は小型の冷却装置と試験管二本を用意して、俺の腕を引っ張り、隣の資料室へと走った。 「待てよ、心の準備がっ…、んうっ」  俺の抵抗むなしく唇はふさがれ、服の裾から入ってきた手に乳首をいじられ、ヤツの太腿が俺の股間を刺激する。  ああ、もう抵抗なんてしなくていいや…。ソファーに倒れこみ、俺は純也の首筋に腕を回し、キスを受け入れた。あのときの、気持ちのいいキスだ。 「なあ、純也…」 「なんだ?」 「いつから俺のこと、好きだったんだよ」 「初めて互いに手でしたときがあっただろ? あのとき、お前の手がすごくよくて、お前以外の誰にも触られたくないって思って――」  純也は話している間も我慢できないのか、触れるだけのキスを繰り返しながら、俺の服を脱がせる。 「お前のも、俺以外の誰にも触らせたくなかった。ということは、好きってことなんだろうなと」  それは俺も同じだ。純也のを、ほかの誰かが触って、そいつも純也のを…なんて、我慢できない。  …って考えてるうちに、全裸にされていた。 「なんだよ純也! 手がはえーな!」 「我慢できない…早くやりたい」  こんな切羽詰まった顔、初めて見る。焦って服を脱ぐから、眼鏡が引っかかってやんの。 「ほら、俺も手伝ってやるから」  ジッパーを下ろしたら、パンツのゴム部分から先っちょがコンニチハしてる。パンツも脱がせてやったら、いきなり純也は俺をソファーに押し倒した。 「うわっ」  純也が俺のペニスを口に含む。軽く当たる歯は『エッチなメイド萌絵のお口』みたいだが、エロい唇や舌の動きは、萌絵ちゃん以上に気持ちいい…! 「あ…純也…やだ…」  舌がカリ首を舐め、サオを上から下から撫で、強く吸う。これが本物のフェラチオか! 「純也…俺も…お前にしたい」  俺は体を起こし、ソファーに四つん這いになり、膝立ちになった純也の硬くなったペニスを握ると口に含んだ。亀頭をグルリと舌で舐めて、ちょっと吸いながら口で上下に扱いてみる。こんなもんだろうか。 「はあっ…気持ちい…」 口の中であいつがビクビク暴れる。そんなことするから、歯にぶつかる。純也は痛くないんだろうか? 「純也、痛くないか?」  顔を離し、手で扱きながら上目使いで聞いてみた。 「いや、気持ちいい。『萌絵のお口』よりずっといいぞ」  えっ…?  疑問に思った俺の顔を見て、純也はバツが悪そうにうつむく。 「…悪い。智直の感触が残ってるかなと…俺も『萌絵のお口』を使ってみた」 「何だよ、“穴兄弟”ってか!」 「でも、もう使わない」  また、ソファーにあお向けで押し倒される。 「お前の口が一番エッチだってわかったから」 「気持ちいいって言ってくれないのかよ」 “気持ちいいに決まってるだろ”と、純也が指にローションをたらし、俺の尻に割りこませた。 「ひゃっ!」 「力抜け」 そんなこと言ったって…こんな所に指を突っこまれるなんて、直腸検査すら経験がないのに。

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