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第34話ー翠ー

「ん? なんか聞こえねぇ?」 「ああ、来たようだな」 「「なにが!?」」 この雪の中、一体何が来るの!?卯一郎さんは優雅に食後のコーヒーを飲み始めてるけど、いったいなにが来るんですか? 卯一郎さん! 地鳴りは近づいてくると、車のエンジン音と雪をかき分けて押しつぶすような音だ。僕はこんな雪の中をまさか車が走ってくるなんて夢にも思わなくってニンジンを急いで飲み込み、山城さんが立っている窓へ行った。 雪煙りが上がっているのが見えて、ロッジへ続く入り口へ向かってきた。それは一台の大きな黒い国産車だ。え~! こんな雪の中を走れる車があるの!? 日本スゴイ! さすがです、日本! ぎゅーぎゅーと雪を踏みつける音を立てながらロッジに寄れるだけ寄って、その車が停車した。後ろに小さな荷台が付いてる。その荷台にはカバーが掛けてあってなにか荷物を乗せているみたいだ。よくみると、荷台の付いている車なのに後ろに座席もある。僕が知ってる荷台が付いてる車は父さんが乗っていた軽自動車の良く見るあれだ。荷台がある車なのにその高級感は一体……。 「誰だ? あいつ」 山城さんがそう呟く。運転席から黒いコートをきた背の高い、いや、ホントに高い!卯一郎さんと変わらないかも?そして、髪の毛は上品に金色に朝日に輝いている。そんな彼にふさわしくない準備良く手には新品同様のスコップ。それを手なれたように使い雪をか始めた。車で玄関まで寄せたけど、さすがに雪をかかないと玄関まではたどりつけない。って、あの人、雪かくの早い! 手際いい! なに? なんのプロ!? 鮮やかなスコップ捌きを見せ、背の高い黒いコートの人はあっという間に玄関の方に消えて行った。 ピンポーン 「わ! 来た!」 「そうみたいだな」 「う、卯一郎さん、なんでそんな落ち着いてるんですか?」 「俺が呼んだ。翠は何故そんなに慌ててるんだ?」 「え、だって、人が……」 「人が来るのがいやなのか?」 「いえ、そうじゃないですけど……」 ピンポーン 「はいはいはーい」 山城さんが自分の家のように玄関に迎えに行った。僕は誰が来たのか良く分からないけど、卯一郎さんが呼んだって聞いてじわりといいようのない気持ちに襲われた。玄関からこちらに向かってくる足音に、何故か僕は冷や汗をかきはじめてしまう。なんでこんなに怖いんだろう。 ……ああ、そうだ、僕はなんだか分からないけど、卯一郎さんが呼びだしたというのが怖いのだ。こんな大雪が積もったなか呼び出すということは、その人は卯一郎さんの親しい人だ。そのことがなぜ怖いのか、自分でも分からない。 ミシミシとロッジの木製の床を踏む音が食堂の前のドアで止まった。ドアが開くと、山城さんがドアを開け、金色の髪の背の高い人を中に入れた。 「ういちゃんにお客さん〜」 「ああ、早かったなグラハム」 「卯一郎さま」 背の高いコートの人は、金色の髪をきっちりと整え、細い銀縁の落ち着いた眼鏡をかけた男性だった。 「執事ってホントにいるんだな~」 執事……執事!? ひつじでなく執事? 「卯一郎さま、御注文の品を持ってまいりましたが……」 「ああ、御苦労」 「……失礼ですが、いつまでここにご逗留なさるおつもりですか?」 ……ああ! ああ! やっぱり!  この人は卯一郎さんを連れ帰る! 僕は体中の血が消えてなくなりそうになり、体が冷えていく。いつのまにか握っていた両手のこぶしがわなわなとふるえ、冷えた汗でじっとりと湿っていく。 「いやなヤツだな。嫌味か、グラハム」 「そのようなことは考えておりません。……日本人に分かるように会話をした方がよいと思ったまでです」 「ふーん」 どことなく二人の間にわだかまりを感じ、僕はさらに緊張してきた。山城さんは面白そうにニヤニヤして二人を見てるけど……

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