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グール 4
「・・・何故斬った?」
僕はガキに近づきながら聞く。
「建物から出てくるヤツは逃がすな、と云ったのはあんただろ」
ガキは無表情のまま言った。
シャープな顔立ちだ。
整っているが甘さはない。
僕の好みは甘くて悪そうな顔なんだが、今ではこのガキの顔がとても気に入っている。
「お前が斬る必要はなかっただろ?」
僕はガキのそばにいく。
もう10センチは違う身長なので見上げなければならない。
出会った頃は16才。
同じくらいの身長だった。
見下ろしてくる顎を掴んでその目を覗き込む。
ガキの目は相変わらず澄んでいた。
「あんたは・・・本当に約束を守るつもりだった?」
ガキが聞く。
「もちろん」
僕は答える。
「でもあんた、アイツがここから出て逃げてもよかったんだろ?というより逃がすつもりだっただろ?・・・この建物から自分から出たなら、約束はもう守らなくてもいいから」
ガキは羽織っていたジャケットのポケットからハンカチをとりだし僕の顔の血を拭いながら言った。
その指の優しさに僕は目を細めた。
ガキの指は心地よい。
「当たり前だ。簡単に殺したら面白くないだろ。大体、たくさん人数殺せばいいってもんじゃないんだ。殺した人数なんか誇るヤツは下手くそなんだよ。じっくり、一人の人間の身体に向き合って、とことんソイツの心まで揺さぶって、何度も何度も許してって叫ばせて、長時間楽しむのが最高なんだぞ」
僕はブツブツ言う。
「・・・あんたそれ、殺人の話だよな、俺の誤解でなければ」
なんか複雑な顔をしてガキが言う。
「当たり前だろ!!」
僕は怒鳴る。
僕の予定ではアイツが建物の外に出さえすれば、約束違反だからゆっくり拷問できるはずだったのだ。
そうすれぱ、もう、助けてやる約束をコチラが守らなくてもいい。
ギリギリまで追いかけっこのゲームを楽しみ、約束を破らせて、拷問を楽しむ、その予定だった。
「・・・お前、わざと斬ったな」
僕は気付く。
ガキらしい。
ガキは逃げるアイツを斬ることで、時間内に建物から出さないことで、アイツを僕の長時間に渡る拷問から救ったのだ。
僕は約束は守るからだ。
向こうに約束を破らせて、その約束自体を無効にする予定だったけど。
最初から。
「・・・6人殺せば十分だろ」
ガキは淡々と言った。
ガキは優しい。
女を輪姦して、脅して黙らせていたような連中でさえ、拷問に合うのは嫌なのだ。
僕から救うために両手を斬った。
・・・全く。
「・・・埋め合わせはしろよ、ガキ」
僕はガキの首をつかんで、顔を引き寄せながら言った。
殺人では消化不良だ。
もう、残りはこっちで発散するしかない。
ガキの身体で、だ。
「・・・いいよ」
ガキは小さく笑った。
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