128 / 156

殺戮の歌4

 怒り狂っていたあの人が、不意に怒りが溶けて、大人しく俺の腕の中にいる状態。  何、これ。  なんでこんなに大人しく俺の腕の中にいてくれてんの?  俺は幸福感に酔いしれる。    それでもこの人が可哀想で仕方がない。  この人には俺だけなのだ。  愛した者は死に、この世界にただ一人取り残されて。  どんなに人をいたぶりむさぼっても、この人は満たされることなどない。  穴の開いたグラスなのだ。  この人に必要だったものはもうこの世界にはないのだ。  俺でもこの人の穴は防げない。  壊れたグラスは元には戻らないのだ。  この人はとうの昔に壊れてしまったのだ。  でも。  きっかけはともあれ、この人は俺を望んでいる。  最初は自由に使えて楽しめる穴として。  でも、今は俺の全てを求めてる。  そして、そのことに罪悪感さえ持ってくれている。  どんなに人を殺しても、人を傷つけてもなんとも思わないあんたが。   ねえ、わからないのはあんただけ。  あんたは元に戻らない。  あんたは昔愛したようには愛せない。  昔の愛は美しかった?    でもあんたは今のあんたに出来る精一杯で俺を想ってる。  壊れたあんたが必死でなけなしの思いやりや、無くしたはずのいたわりをかき集めて、俺に向かいあう。  それは愛と何が変わるの?  俺には同じだ。  あんたには俺だけだ。  死んだ人もあんたに手をだせない。  ありがたいことに、今のあんたは死んだその人が愛したあんたとは別人だし、その人が待つ天国にあんたが死ぬようなことがあってもあんたは行けない。  愛する人に再びら出会えたとしても、壊れたあんたは相手を傷つけて損なってしまうだけだろう。  俺は違う。    俺はあんたの物だ。  あんたといる。  どんな地獄でもあんたといる。  俺はあんたに壊されない。  壊れてたまるものか。  あんたを独占できるのに。    あんたがあんたで良かった。  あんたが酷い男で良かった。  あんたが酷ければ酷いほど悪ければ悪ほど俺には都合がいい。  俺はそのことに歓喜してしまうほど、歪んでいる。  だって誰もあんたを愛さない。  あんたは酷い男だから。  俺だけだ。  あんたには俺だけ。  あんたを誰にも渡さないことがどれだけ幸せなのかあんたにはわからないんだろうな。  俺の胸の中でいつもより小さく感じられるあんたが愛しくてたまらない。  「ごめんね・・・あんただけだ」  この世界の誰よりもあんたを独占したいのはこの俺なんだ は暖かくて、いつもより小さく感じられる可愛いあの人を抱きしめていたら、たまらなくなってきた。  可愛い。  可愛い。  本当に可愛い。  あの人の髪の中に鼻をうずめ、匂いを嗅ぐ。  甘い体臭に酔う。  あの人の背中を撫でてしまう。  綺麗な肩甲骨の窪みを指先で辿ってしまう。  俺はここにキスするのが好き。  抱かれているときは、あの人の背中にはなかなか唇で触れられないから。    指先があの人の感触を欲しがった。  鼻があの人の匂いをほしがった。  唇があの人の肌の温もりを、舌があの人の味を欲しがった。  舐めて、飲んで、挿れたかった。  愛しすぎて。  息が荒くなる。  でも、この人は俺に抱かれることを怖がっている。  俺は知ってる。  俺は無理なんかして欲しくなかった。  でも、せめて・・・。  途中まででもいい。  あんたを甘やかさせて。  「・・・・・触っていい?」  俺は許可を求めた。  あんたがしたくないことなんか、俺はしない。  あの人は小さく震えただけで、何も言わなかった。  だから俺はあの人の服をゆっくり優しく脱がせていった。  脱がせる度に露わになる肌に、キスを落としながら。    「僕だけだ」  あの人が小さい声で言った。    「うん」  僕は全てを脱ぎ捨てたあの人の、淡い色の乳首に、自分の服は乱暴に脱ぎ捨ててからむしゃぶりつきながら言った。  優しく触れたいのに、気が急いてしまう。  だってこんなチャンスめったにない。  夢中で味わうあの人は甘くて、いやらしかった。  尖り、舌先で溶けていく乳首はいつまでも舐めて吸いたくなくなるほど甘かった。  あの人が小さな吐息を漏らすのさえに俺は頭がおかしくなるほど興奮した。  「殺してくれる?」  あの人の言葉に思わず俺は顔をあげた。  不思議なほどあの人の目には残酷さはなかった。  殺しを楽しむあの人の耐え難い程のおぞましさ、それでもその瞬間でさえ美しい冷酷さはなかった。  その目にあるのは懇願だった。  彼のことを言っているのはわかっていた。  俺の友達。  そして、グール「迷子」。  俺は彼が好きだった。  酷い男だ。  あんたは。  敵としてではなく、自分のために彼を殺せと言うのか?    「あんた・・・酷いな」  俺の言葉にあの人は叱られた子供のよつに顔をクシャクシャにした。    でも、泣かせたりはしない。  泣かせたりなんかするものか。  人を残酷に殺すことを楽しむあんたが、人に殺してくれと頼むことがどういうことなのかも俺にはわかっている。    彼は俺を守るために俺を刺した。  おそらく何かが始まる。  それは彼の恋人が望むことだ。  彼はそれから俺を守ろうとしてくれた。  彼の恋人が望むことから。  でも、俺は。  「殺すよ」  俺は優しくあの人に言った。  あんたが望むように、あんたのためだけには殺せてやれない。  俺にはあんたといるために「正義」の言葉が必要だからだ。  でも、彼が俺を守ろうとしたみたいに、守ってはやれない。  ・・・あんたが望むから。  俺は一番正義からは程遠い。  俺はただの恋に狂った男だ。  世界で一番残酷な男に捕まった。  でも残酷な男はその言葉に顔をクシャクシャにしたまま、子供みたいに泣いた。  そこにはどんな性の匂いもない、無垢過ぎる表情だったのに、俺は激しく欲情した。  俺は子供のように腕を伸ばしてくるあの人を、優しく抱きしめることができなかった。  優しく抱きしめて、宥めてあげるべきなのに、俺はあの人を抱きしめながら甘い首筋を味わい、あの人の性器を弄び、さらにその奥の穴へ指をのばしていた。  ああ。  一番残酷なのは。  俺だ。  この人が欲しくてなんでもする。  指を舐めて濡らし、熱いあの人の中に入る。  早急だったかもしれない。  あの人が小さな声をあげて俺にしがみついた。  熱い。  指が溶けそうだ。  かき混ぜる指にあの人が絡みついてくるのが、たまらなかった。  「あっ・・・うっ・・・ぅっ」  声を必死で堪えるあの人が可愛くてたまらない。  俺の指に感じてるの?  こんなに震えて。  しがみついてくれるのが嬉しかったけど、顔が見たくて、ソファに押し倒し、穴を弄りながら顔を顎を掴んで上げさせた。  「見るな・・・」  あの人かうるんだ目で、蕩けきった顔で泣く。    「ごめん・・・」  そう言いながらも俺ら見ることをやめられない。  整った赤い唇は小さく開いて吐息を、もらし、ひそめられた綺麗な眉がどうしようもないほどエロかった。  潤んだ目が薄く開いて、涙をこぼす。  こんなに綺麗なあんたを見ずにはいられない。  俺の指があの人の中のそこをこすった。  「ああっ!!」  殺し切れない声、見開かれた目。  衝撃に震える身体。  美しい性器から雫を零す。  ダメだ。  可愛い。  ダメだ。  あんたを食ってしまいたい。  「止め・・・」  言いかけるあんたの唇を塞ぐ。  舌を絡めあい擦り合う。  優しく、優しくなだめるように。  お互いの舌が一つになったように溶け合う。  恍惚とした一体感に酔う。  ほら、怖くないだろ。  俺は優しくするから。    「止めろなんて・・・言わないで」  キスの後、俺はあの人に囁いた。  恐がらせないから。  優しくするから。  俺はあの人を一度抱きしめて、あの人の身体を細心の優しさでひっくり返し、真っ白な尻の間に顔をうずめた。  そこを優しく濡らしてあげるために。  あの人は拒否しなかった。  舌が触れた時、漏らしたため息から、あの人がこれを待っていたのだと知った。  「舐められるのが好き?」  そう言って追い詰めたい気分になったが我慢する。  この人を追い詰めることだけはしてはいけない。    真っ白な尻と、そんなところまで美しいあの人のひだに舌を俺は這わせはじめた。  「ああ・・・」  あの人が気持ち良さそうに尻を動かしたから、俺は気にすることなくそこを可愛いがることにした。  舌で優しく優しく褶の一つ一つを舐め、指で広げ、中まで舐めた。  指を入れ、擦りながら舐めたなら、あの人は身体を反り返らせ、耐えるように身体を捻る。  舌を沈み込ませた時には、震えながら泣いていた。  尻が淫らに揺れてて欲しがっているのがわかった。  俺が性器を押し当てても、そこで硬くなったそれを こすりつけても、あの人は抵抗しなかった。  だから、ゆっくりとあの人の中に入った。              

ともだちにシェアしよう!