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第17話
翌日は、一日中、落ちつかない心地だった。
啓司は、気軽な気持ちで、蓮の自慰行為を『見たい』などといったのだろうが、蓮としては、そもそも、人に見せるというのを考えたことはなかった。自慰行為の観賞―――というプレイがあるのは知っているが、さすがに、そういう仲ではない。それは、プレイメイトか、恋人とするものではないかと思う。
(でも、しないけど、セフレみたいなモノなのかな……)
よく解らない。一日中、落ち着かない気持ちで、とうとう放課後になってしまった。
夕食、そして風呂のあと、啓司はここへくるだろう。
とりあえず、蓮は、大急ぎで宿題と予習を済ませた。それが済んでいれば、とりあえず、啓司との時間に集中出来る。
何時頃来るのか、と聞こうと思ったが、そういえば連絡先も知らないことに気がついた。
(あとで、連絡先を教えて欲しいって言ったら、教えてくれるかな……)
一応、啓司の『仲間』として啓司に付いたということになるので、教えてくれるくらいは、大丈夫ではないかとも思う。
宿題を大急ぎで終わらせる。が、毎日たっぷり宿題や課題が出されているので、数時間は集中して勉強しなければならない。啓司は、『一緒に勉強』という言い訳を考えたのに、実際、一緒に勉強はしないらしい。なんとなく、手持ち無沙汰になった蓮は、CDを再生させた。クラッシックはサブスクにあまりないから、やはりCDが便利だった。部屋に、雨粒をちりばめたようなピアノの音が静かに満ちていく。
お気に入りのショパン。流れ始めたのは、『Chopin - Prelude Op.28 No.15 』。雨だれ、と通称で呼ばれる名曲だった。
時計を見る。そろそろ、消灯時間、という頃合いだった。
(来ない、のかな)
それならばそれで構わなかったが、今日は、朝から、オナニーをすると決めていたから、物足りなさはある。
(まあ、それなら……してればいいか)
もしも、啓司が来た時の為に、部屋の鍵は開けておく。ベッドは衝立(ついたて)で隠れているから、ドアをひらいた瞬間に、あられもない姿をさらすというのは、ない作りだった。
(別の人が来たときは、ちょっと、悲惨だけど……)
いままで蓮の私室を訪ねてきた人は居ない。だから、大丈夫だろう。それに、大抵、ノックくらいするものだ。
蓮は、部屋着のスラックスと下着を脱いで、ベッドへ上がった。この間から、何度か、アナニーはしている。今日もそのつもりで、ワセリンを手元に引き寄せた。冬に使って残っていた分は使い切ってしまったので、新しいワセリンを買って、それはもう、半分くらいなくなっている。
(啓司、僕がアナニーしてたら、どうおもうだろう)
普通じゃない、のは理解している。
でも、そこで得られる快楽を知ってしまった。本当は、指じゃなくて、もっと違うモノで、もっと強い刺激が欲しいが、さすがに、高校生でオモチャのようなものをどうやって入手していいか、解らない。好きに使うことが出来るクレジットカードは持っているが、買い物の履歴は家がチェックしているはずだった。そこに、アダルトグッズの名前が記載されているのは、さすがにマズイ。
金額の上限も、何を買ってもいいとも言われてはいるものの、実際は、自由ではない。それは、家の庇護下にある蓮としては、当たり前のことだが、不自由さもある。何に使っても誰にも咎められないお金、というのには、少し、うらやましい気持ちがある。
ベッドの上で、臀部を突き出すような格好になる。
下半身は、裸だ。すべて、丸見えになるだろう。
上掛けの上に乗っているので、肌が、上掛けの滑らかな感触を伝える。光沢のあるシルクの上掛けは、在学中、体を冷やさないようにという、祖母からの心づくしの品だった。高価なシルク。入っている綿もシルクのものだと、伝えられている。その、滑らかな感触が、官能的でつい、体が反応してしまう。いつもの上掛けだ。寝るために使う時はなにも感じないのに、素肌が触れると、別の官能が産まれるのは何故だろう。
乳首が、快楽を主張して、固く張り詰めてきたのを、蓮は感じる。何度か、乳首も弄っているうちに、ここが、快感を生み出す場所だと言うことを、体が学習した。上は、服を着ていたし、今は、上掛けに上半身は突っ伏した状態だ。
直接弄ることも出来ずに、もどかしさだけが募る。
蓮は、ワセリンを指にたっぷりと塗り込めて、後ろにあてがった。
「ん……っ」
入り口は、酷く敏感で、つい、声が漏れてしまう。自分のではないような、甘ったるい声だった。
ひくっ、と入り口が収縮している。撫でていくと、それだけで、じんわり快が広がっていく。
「んー……っ」
枕に顔を埋めて、声を押し殺す。気持ちが良くて、思考が、とろんと蕩けていく。
そこは、もう、早く内部を探って欲しくて、淫猥な収縮を繰り返しながら、蓮の指を誘い込んでいる。
「あっ……、も……」
指がすんなりと、そこへ飲み込まれていく。痛みはない。内壁にこすりつけるように、指を埋めて、根元まですんなり飲み込まれる。
「あっ……、ん……っ」
指一本、はそれほど存在感があるわけではない。違和感も、ない。何度も出し入れする。引き抜く時、膝に、ぞくっとくる感覚がある。かくん、と膝が揺れる。体制的に、後ろに手を伸ばしているのは、少しだけ辛いが、それよりも、ここで得られる快感に、夢中だった。
「あっ……っんん……っ」
もう一本、指を増やす。容積を増したことで、得られる快感が格段に上がる。内壁が擦られて、押し広げられるような、感覚だ。
「あ……っ、もっ、と……」
もっと、欲しい。指を、もう一本増やしてしまおうか。それとも、何か、別なモノで埋めて欲しい。
啓司の、剛直を、ここへ―――と想像した瞬間、前には触れてもいないのに、一度、達してしまった。
「あ……、なに……っいまの……っ」
触れずに達したことは、いままで一度もなかった。妄想のせいだろうが、オナニーの『おかず』に啓司を使ってしまったことには、いくらか罪悪感がある。けれど、その背徳感が、よりいっそう、行為に歯止めをきかなくさせた。
「あっ、も……っあっ……っ」
忙しなく指を動かす。もっと奥まで、もっと、大きい何かで、もっと、熱い塊を。
無我夢中に行為に没頭していたとき、ふと、空気が変わった。快適な室温に保たれていた室内から、その快適さが流れ出て行ったような。
「ごめ……、遅れ……」
啓司が、部屋にたどり付いたようだった。
蓮の痴態を見て、呆然と立ち尽くしているようだった。
「あっ……っん、こーいうの、見たいって……、言ってた、でしょっ……っ」
見られている、視線を、そこに感じる。それだけでたまらなくなって、また、一度達した。
「あ、その……すごい……ね……。指……入るんだ」
啓司の視線が、そこに釘付けだった。視線を感じて、中が、収縮する。指が内壁が擦られて、酷く気持ちが良かった。
「あっ、あっ……っもっ……っあっ……っ」
身体中が、小刻みにわななく。啓司に見られているまま、一人で、達するのは恥ずかしくて、それが、気持ちが良かった。
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