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第22話

「っ……鷲尾くんとは……そんな、仲じゃ……っ」  それは、確かだが、こんな状態を見た啓司が、どう思うかは解らない。 「本当に、毎日勉強と音楽鑑賞してるだけなの? ……いろいろ、あいつにご奉仕してるんだろ? ……僕のもしてくれよ……ほら。まずは、口でさ」  飛鳥井が自分の性器を引きずり出す。すでに、勃ちあがったそれをみて、一瞬、蓮が怯む。逃げようと顔を背けたが、背後から、髪を掴まれて、無理矢理口を開けさせられた。そこへ、ゆっくり、飛鳥井の性器が近付いてくる。 「……っ! や……っ止めろっ……っ!」 「……ほら、口でしてみろよ」  飛鳥井がゆっくりと近付いてくる。泣きそうになりながら抵抗していたが、抵抗にもならない。このまま、飛鳥井の性器を口に突っ込まれるのはイヤだ、と思った時、不意に、掴まれた髪が解放された。 「っ……っ!?」  何が起きたか解らなかったが、すぐに理解した。 「お前らっ! 何してるんだっ!」  啓司と、桃花鳥の二人が、乱入して、蓮を戒めていた取り巻きたちを、殴り倒したのだった。 「な、なんでここにっ……っ! 今日は、僕の予約……」  狼狽える飛鳥井の胸ぐらを掴んだ啓司は、そのまま、勢い良く、拳を顔に炸裂させた。  飛鳥井の体が、床に投げ出される。解放されて、蓮は、ホッとした瞬間、涙が止まらなくなってしまった。 「……鳩ヶ谷くん、大丈夫?」  桃花鳥が、優しく聞いてくる。  こくん、と頷いたが、桃花鳥は、気の毒そうな顔をしてジャケットを脱ぐと、蓮の肩に掛けてくれた。 「鷲尾くんの、予感が当たったね……。この子達は、僕が、ちゃんと、学校に引き渡すよ」 「その前に、飛鳥井から、スマホを……」  啓司は、飛鳥井の手から、スマートフォンを奪った。そのまま、操作して、動画を消去する。クラウドに上げられていないか、一通りすべて確認した上で、床に転がすと勢いよく踏み潰した。 「僕のスマホっ!」 「……とりあえず、これは俺が預かる。データの復旧でもされたら、たまらないしな……」  飛鳥井は「そんなあ」と言いながら、顔をおさえる。その鼻から、たらり、と鼻血が流れた。 「先生、こいつらのことはよろしくお願いいたします。俺は、鳩ヶ谷くんと一緒に帰ります」 「うん。鷲尾くん、鳩ヶ谷くんのことをよろしくね」  啓司に支えられて立ち上がろうとしたのに、膝が震えて立てなかった。啓司は、蓮のはだけた胸元を整えてから、姫君のように腕に抱き上げてしまう。 「わ、鷲尾くん……っ!?」 「歩けないんだから、これが一番効率が良い」  さらりと言う啓司に「まあ、そうなんだけど」とごにょごにょと、文句を言いながらも、蓮はおとなしく運ばれることにした。 (そういえば……こんな風に、抱きかかえられるのとか……、初めてかも知れない)  あれはセックスじゃないし、キスもしたことはない。啓司が、蓮をどう思っているか解らないし、蓮自身も、啓司をどう思っているのか、よく解らない。  ゆっくりと、運ばれながら、緊張の糸が切れたのか、蓮は、次第に意識が遠ざかっていくのを感じていた。  啓司に抱えられ、自室まで連れてきて貰ったのは良いが、二人きりになって、なんとなく、気まずくなった。 (なんで、あそこに乱入出来たんだろう……)  鷲尾家の力のおかげだろうか。そして、桃花鳥が一緒に居たことも、少し謎だ。  ちらり、と啓司の様子をうかがう。啓司は、怒っているようで不機嫌そうだった。 「あのさ……怒ってる?」  蓮がおずおずと聞くと、啓司がハッとしたように目をむいて、それから、いつもの表情に変わる。だが、また、次の瞬間には、不機嫌そうな仏頂面に変わっていた。 「啓司……」 「あー、ゴメン。蓮のせいじゃない……ただ、あいつらに、好き勝手されたのが、腹立たしくて。本当に、半殺しにしてやれば良かった」 「十分殴ってたと思うけど」  飛鳥井は、しばらく外を歩くことは出来ないだろう。 「暴力は、いけないと思うけど……僕は、助かった、ありがとう」 「俺の方こそ、うっかりしてた。あいつらがいるのに、一人にして済まない。家からの電話が長引いた。桃花鳥先生に教えて貰わなかったら……」 「でも、別に、守ってくれって頼んでないよ? 啓司サイドに着いたらしいって言うのは解るけど」  だからといって、主人と家臣のような間柄になったつもりはない。だから『守ってもらう』というのは、しっくりこない。 「あの、なあ……」  啓司が、ガシガシと頭をかいて、溜息を吐く。 「俺の派閥についたお前を、あいつが好き勝手したって言ったら、こっちのメンツにも関わるんだよ……って、そういうことじゃなくて……俺は、あんな奴に、お前を好き勝手されるのは、我慢がならないんだよ。お前、別に、ああいうことがしたかったわけじゃないだろ?」 「いくら、僕がビッチだからって、そこまでビッチ扱いしないで貰える? ……ああいうの、したいのは、啓司だけだよ」  失礼な、と憤慨しながら言うと、啓司の顔が、ぽっと赤くなった。 「何?」 「あっ……いや……というか、凄い、ちょっと、思い掛けない言葉を聞いたもんだから……。なあ、蓮」  啓司は、真剣な顔をして、蓮の顔をのぞき込む。熱っぽくて、誠実な眼差しだった。 「な、に?」 「あのさ、俺ら、付き合わない?」 「えっ? ……なんで?」 「することはしてるし……」 「でも、僕は、啓司とセックスしたつもりはないよ」 「いやさ、どうせ、お前が処理だって言うならさ、思い切って、愛しちゃえば良いと思うんだけど」 「愛……っ!!?」  思わぬ言葉が出てきて、蓮は思わず大声を上げてしまった。声が、ひっくり返る。 「なん、なんで、愛?」 「……セックスなら、気持ちが通じてた方が気持ち良いだろ」 「だって、セックスじゃ……」  啓司の手が蓮の腰に回って、ぐいと引き寄せられた。抱きしめられて、ほっ、と落ち着いてしまった。飛鳥井に感じた嫌悪感とは、全く違っている。 「付き合ってるってことにしてくれたら、あいつらも、手出ししてこないと思うし……いろいろメリットしかないと思うんだけどな」 「そういう、損得って、ちょっとイヤ」  体で、そういう見返りを求めているみたいで。  蓮の言葉は、口にしなくてもなんとなく伝わったのだろう。 「まあ、今は、『処理』でもいいか……でも、必ず、恋人になって見せるからな」  啓司のさわやかな宣言を聞いて、頭の芯が、くらり、と揺らぐ。恋人。中々、インパクトの強い言葉だ。そんな関係になることを、蓮は、はなから諦めていた。 「ともあれ。……『勉強会』は、続けるんだろ?」  啓司が、にやりと笑う。  顔が熱くなるのを感じながら、蓮は「学生の本分でしょ」とだけ返しておく。 「お前がそう言うなら、それでも良いけど……俺は、結構諦めが悪いからね」  覚悟して。  そう言いながら、啓司が頭にキスをした。今まで、誰からもされたことのないキスに、腰が甘く震えるのを感じながら、蓮は啓司の腕にしがみついた。  了

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