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#19 2人だけのマナー講習

「くっ……」 「そう、音を立てないように……上手だね」 「こう、ですか……?」 「そう。うーん、まだ手が震えてるね。でも少しは良くなったかな。オーケー、一旦休憩にしよう」 「はぁー!」  僕は、フォークとナイフを置いて大きく伸びをした。 「慣れないことを覚えるのは、疲れるよね。お疲れ様」 「こんなに色々マナーがあると、何を食べているのか分からなくなります、アルムさん」  僕は今、アルムに食事の作法を習っている。今度隣国の王子との晩餐会があるようで、それに僕も出席することになったのだ。 「まぁ、こういうのは慣れだね。晩餐会の日まで毎食、マナーレッスンだから頑張ってね」 「うっ……」 「大丈夫、俺が毎回教えてあげるから、心配しなくても覚えるよ〜」  僕の肩をトンと叩いて、にこやかに微笑むアルム。こう見えて、教える時の彼は結構厳しいのだ。 「はい、頑張ります……」 「ふふ、ミコトくんは覚えるの早いから、ほんとに大丈夫だよ」  僕の後ろにいたアルムは、僕の首筋に「ちゅっ」と軽く口付けた。 「ちょっ……アルムさん?!」 「ん? どうしたのミコトくん、そんなに赤くなって」 「〜〜〜」  僕は赤くなった頬を隠すように俯く。アルムは、間近で見ても本当に美形で、男の僕でも綺麗だと思ってしまう。 「あぁ、気にしないで。これは挨拶みたいなものだよ。俺には他に想い人がいるからね」 「そ、そうなんですか……?」 「……まぁ、隠すつもりはないよ。ただ、君のことが気になってるのも、ほんと」 「えっ……それって、あっ!」  僕は腕を引かれ壁に押し付けられる。アルムの吐息が近い。心臓がドキドキとうるさく鳴る。 「ミコトくん、君は誰が気になっている? シオン王子? ヤナギさん? それとも……カノキくんかな?」 「なんで……その人たちの名前を……」  アルムのオレンジ色の瞳がキラリと光る。そのまま僕の右耳をゆっくりと下から舐め上げた。 「──っ!」  びくりと身体を震わせる僕の首筋に指を這わせ、アルムはふっと笑った。 「もちろん、俺でも良いんだよ、ミコトくん」 「や、やめて、ください……」 「やめて欲しかったら、もっとちゃんと嫌がらないと。君は流されやすいから、俺は心配してるんよ」 「アルムさん……僕……」 「俺は、欲しいものはとことん欲しくなる人でね。だから、毎日君と一緒にいられるのが嬉しい反面、日に日に我慢が出来なくなってきている」  アルムが話すたびに、吐息が僕の耳にかかってくすぐったい。 「あんなに君にべったりだったカノキくんも、今は何故か全然姿を見せないしね」 「………」 「あれ、表情が変わったね? カノキくんと何かあったかな?」  僕は、何も言い返せない……。確かにシオンの執務室でキスしたあの日から、カノキの姿を全く見ていない。それに、シオンが言っていた「お仕置き」という言葉も気になっている。  そんな僕の気持ちを見透かしたように、アルムは僕を見て薄ら笑った。 「君は、俺たちのことを知らなさすぎるね」 「………」  アルムの足が僕の足の間に入り、ぐぐぐっと股間を押される。 「うっ……」 「俺のことも、もっと知って欲しいな〜?」  膝でぐりぐりと股間を押され、僕は思わず情けない声を出した。 「イイ声……他の人にも聞かせたの?」 「そんな……あぁっ!」  アルムの手が、さわさわと僕の股の膨らみをさする。 「こんなに勃たせて……」 「これは……不可抗力ですっ……うっ」 ── やめて欲しかったら、もっとちゃんと嫌がらないと──  アルムのさっきの言葉を思い出し、僕は勇気を出して言ってみる。 「だ、だめですっ……アルムさん、やめてくださ……」 「あぁ……偉いね。さっきの言葉ちゃんと覚えてたんだね。でも……」  アルムは片手でたやすく僕の両手を握ると、そのまま壁に押し付けた。 「もう遅いよ。止められない──!」  アルムはもう片方の手で僕のズボンを脱がす。 「アルムさん……やめ」 「やめないよ」  僕の勃ったものがあらわになる。アルムは親指で、僕のものの先端をくるりとなぞった。 「──っ!」 「誰かにこうされるのは、初めて?」 「………」  僕は黙って1回、首を縦に振る。 「ふっ……正直なのは、君の良いところだね」  アルムはゆっくりと僕のものを上下にしごく。 「ここ触られるの、怖い……?」 「はっ、あっ……」  怖い。でも、身体が快楽に引っ張られるような間隔に、くらくらする。 「いいこ……力を抜いて、気持ちいところだけに集中して」  へなへなと座り込む僕を優しく支えて、アルムは僕を後ろから包み込むようにして座らせた。 「あっ、アルムさ……」 「イイ顔してるよ。イクの我慢しなくて良いからね〜」 「あっ、あっ……」  1人でするのとは全く違う感覚。アルムの細くて長い指が、1本1本バラバラに、僕の気持ちいいところを探るように動く。僕の反応が良いところを見つけると、そこをしつこく何度も触ってくる。 「だめ……ぼく、いっちゃ……」 「イッて良いよ」 「あっ──!!!」  びゅっ…… 「あらら……君身体小さいのにすごい量、だいぶ溜めてたんだねぇ」  手に出た精液を眺めて、満足そうに微笑むアルム。 「そんなに、見ないでください……」  肩で大きく息をしながら、僕はアルムに言う。 「人にイかされたのも、初めて?」 「はい……」 「どうだった? 気持ちよかった?」 「気持ちよかっ……たです」 「それは良かった」  アルムはテキパキと僕を立たせると、ベタベタになっている箇所を丁寧に拭いて、服を着せてくれる。 「アルムさん、あの……」 「ん?」 「これで……終わりですか?」  それを聞いたアルムの目が一瞬鋭くなる。 「ミコトくん……そういうのは、簡単に言ったらダメだよ」  それを聞いて、僕はハッと我に帰る。気持ちよさに負けて、変なことを口走ってしまった。 「あっ、ごめんなさい。僕、こんなこと……」 「まぁ、こんなことした俺が言うのもなんだけど……」  アルムはため息混じりに言葉を続ける。 「君はもっと知るべきだね。自分のことも、俺たちのことも」 「はい……」 「まぁ、〝こういうこと〟またしたかったら俺に言うと良いよ。今度はもっと気持ちいいところ、教えてあげる」  アルムの手が、僕のおしりをさらりと撫でる。ビクッと反応する僕。 「それはっ……」 「ふふっ、冗談。ここから先は、君の好きな人としなよ」 「僕の、好きな人……?」  アルムは、人差し指で僕の顎をすくうように持ち上げる。 「そう、俺でも良いし、他の4人……いや3人かな? ……決めるのは君だ」 「僕は……今は、分からないけれど……知りたいです。もっとみんなのことを」 「その調子だよ、可愛いミコトくん」 「〜〜〜からかわないでくださいっ!」 「ふふっ、今日はもうマナー練習も終わりにしようか。君も疲れてるだろうしね」  アルムは、いつも通りの表情で笑った。 ── ─ ─ ──やっ……てしまった!!  アルムは1人、執事長室で大きくため息をついた。 「最近毎日ミコトくんと2人きりだったから、つい手を出して……クレオが言ってた通り、我慢が効かなくなるんだね、これは」  さっきまでミコトを触っていた手を見つめるアルムの頬は、赤い。 (危なかった……あれ以上一緒にいたら、俺はもっと色々してしまったかもしれない)  身体が、熱い。クレオのこと以外でこんな気持ちになるのは、初めてだ。 「これがミコトの力……そして俺たちの運命、か」  あぁ……クレオに会いたい。  会って、謝りたい──

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