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第7話 大賢者の弟子 少年side

 食事が並べられたテーブルと一緒に置かれた椅子に、2人はテーブルをはさみ、向かい合って腰を下ろす。  アニマシオンは生活感があふれる質素(しっそ)な部屋を見まわし、驚きを隠せない様子で口を開いた。 「君はここに住んでいるのか?! この地下に?!」 「はい、殿下… 師匠の大賢者ピントゥラ様とともに、ここで暮らしておりました… ですが、昨日ピントゥラ様の物はすべて運び出されてしまったので… 今日から僕は、1人で暮らすことになります」 「1人で…? この地下で、君は1人で暮らすと言うのか?! 上で暮らしてはいけないのか…?」  アニマシオンは心配そうな顔をする。 「はい… そうなりますと、僕は誰かに(さら)われる危険にさらされるので… このお役目を終えるまで、僕はこの地下を出ることを禁じられています」  だから、今日の“継承の儀式”だけは絶対に失敗したくなかったんだ! 何でも始めが肝心(かんじん)だと言うけど… もしここで失敗したら、アニマシオン殿下に無能な奴だと、きっと嫌われてしまう!  僕はたぶん… これから20年ぐらいは、この地下で暮らすことになり… その間、国王となられるアニマシオン殿下以外の、生身の人間には会えない。  もちろん、いずれは僕も弟子を取ることになるけれど、それはずっと先の話だし… だから僕は、殿下に好かれたいし、絶対に仲良くなりたいんだ!! 「君は… 大賢者ピントゥラの弟子?」 「はい、殿下」  険しい表情で考えこみ、アニマシオンはブツブツと独り言をつぶやく。 「“継承の儀式”に… 薬酒で強制的に発情させられ、私たちは荒ぶる本能のまま、“(つがい)(ちぎ)り”を結ばされた…」   「王太子殿下が戸惑(とまど)われるのも、理解できます… でも、この儀式は本能に身を(ゆだ)ねて身体をつなげ、“番の契り”を結んだ方が、お互いの魔力をうまく融合(ゆうごう)しやすいのです…」  アニマシオン殿下は、国王になるための厳しい教育を、幼い頃から受けておられるから… 自制心がとても強い。  だから魔力も普段から、殿下は(すき)なく完璧に制御されていて、儀式に必要な魔力まで制御してしまう恐れがあった。  そうならないように、僕を抱く殿下にだけ、儀式の詳しい内容を告げられなかったんだ… でも、殿下は何も告げられなかったことを、不快に思っているはず… やっぱり僕は、嫌われてしまうかなぁ? 「なるほど…」  感情が読み取れない顔で、アニマシオンはチラリと視線を上げる。 「・・・・・・」  “番の契り”を結んだ寝床(ねどこ)の下にあった魔法陣は… 僕たち2人の、魔力の相性を確認するためのもので、昨夜、上手く魔力が融合したことで… 次の儀式をすぐにでも始められると証明できた。  もちろん失敗することも想定されていて… その場合は、魔力を上手く融合させられるようになるまで、僕と殿下は魔法陣の上で性行為を繰り返して、地道に練習することになっただろう…  一度で上手く出来て良かった、本当に! 「…君が、次の大賢者なのだな?」 「はい、殿下…」  「…ところで、君の名前は?」 「あっ、これは失礼を…っ! カジェと申します」  そうだった! 媚薬入りの薬酒を飲んだせいで… 僕は殿下と会った瞬間、発情してしまったから、無礼にも今まで自分の名前さえ殿下に言えてなかった!! 「カジェ…」 「はい!」  インテルメディオ王国に仕えるのではなく、国王陛下ただ一人に忠誠を誓い… 国王が望む時のみ、未来視(さきみ)の魔法を行使するという大賢者。

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