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第9話 昼も夜も無く アニマシオンside

 秘密の扉を通って、地下にある秘儀(ひぎ)の間へ入ってからどれだけ時間が過ぎたのか…? アニマシオンは時間の感覚が鈍くなっていた。  「・・・・・・」  ああ… 長い時間、窓の無い部屋にいるせいか… どうしても、息苦しさを感じてしまう… こんな環境の中で、カジェはよく平気でいられるな?  食事を食べ終わり、石壁に(きざ)まれた、照明や暖房用の簡単な魔法陣を見つめていたアニマシオンは、視線を移し…  食べ残した料理を、丁寧(ていねい)に1つの皿にまとめるカジェを見た。 (普段の食事は、一日一回しか地上から転移されないため、残りは大切に保存している)   何年も地下で暮らすカジェは、アニマシオンが感じている、不快な息苦しさは感じていないように見えた。  「カジェ、君はいつからこの地下で暮らしているのだ?」 「え? はい… 僕が大賢者ピントゥラ様の未来視の魔法で、継承者に選ばれて、この地下に呼ばれたのが、9歳になったばかりの頃でした」 「9歳だって?! 10年ちかい月日を、この地下で過ごして来たのか?!」 「はい」 「嫌にならないか? ずっとこんな場所で暮らすのは?」  きっとカジェだって、嫌に決まっているだろうけれど… あまりにも平気そうな顔をしているから、聞かずにはいられない。  アニマシオンは、眉間にしわを寄せて、カジェにたずねた。 「確かに始めの頃は、とても辛かったけれど… 僕は元々孤児なので、ピントゥラ様が親代わりとなって、育ててくれましたし、食べ物や住むところにも困らないだけでも、幸せだと思っています… それに殿下の賢者に選ばれ、大切な役目をあたえられただけでも、とても光栄なことなので…」  ニコニコと嬉しそうに語るカジェに、アニマシオンは複雑な気分になる。 「う~ん… そうか…」  なるほど…! カジェは子供の頃はもっと、劣悪(てつあく)な環境で暮らしていたから、このような風通しの悪い地下でも、楽園のように感じているのかもしれないな? うう~ん…  思わずアニマシオンは唸った。  「それに殿下、ここは確かに地下ですが… 地上の様子をいつでも見ることが出来るのですよ?」 「地上の様子を見る?!」 「はい! 広間の方に、それができる魔法文字が刻まれています… 殿下も地上の様子を、ご覧になられますか?」 「ああ、見せてくれ!」  カジェと一緒に広間(秘儀の間)に戻ると…  扉のわきの石壁に刻まれた、ベルの音を騒がしく鳴らした魔法陣の近くにある、ずらりと並んだ魔法文字の一行にカジェが触れる。  カジェは魔法文字に、魔法を発動させるために、桃色の魔力を流す。  ずらりと並んだ魔法文字が、順番に桃色に輝き、フッ… と広間全体が明るくなった。  アニマシオンは壁の魔法文字から、明るくなった広間へと視線を移して、驚愕(きょうがく)する。  いつの間にか自分たちが、王宮の中庭にいたからだ。 「これは… 転移魔法か?!」 「ふふふっ… いいえ、殿下! 床に触れて確かめて下さい」  カジェは得意げに、アニマシオンに指示を出す。 「床だと?!」  カジェは何を言っているんだ?!  自分の足元の、綺麗に土を(なら)された中庭の歩道をながめながら、アニマシオンは言われた通り、身体をかがめて地面に触れる。  昼間の陽光に温められた、土の感触がするに決まっていると思っていたら… アニマシオンの手のひらに感じたのは、ヒヤリと冷たい石床の感触だった。 「この魔法は転移魔法ではなく、映写(えいしゃ)魔法です!」

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