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第18話 未来視の魔法

 秘儀(ひぎ)の間の中央にある、ひときわ大きく複雑な魔法陣の上で、2人は繰り返し情交(じょうこう)を重ねる。  アニマシオンとカジェが、情交中に無意識で放った魔力が混ざり、融合(ゆうごう)して出来た魔力が… 魔法陣に細かく(きざ)まれた魔法文字を、金色を()びた桃色の輝きで中心から順番に放射状に染め上げて行く。 「アニマシオン様… 僕を抱きしめて!」  ハァッ… ハァッ… とあらい息をはきながら、カジェは細い腕をアニマシオンの首にまわし引き寄せて… 自分の額をアニマシオンの額に、ピタリとくっ付けた。 「カジェ…!」  指示に従い、アニマシオンはカジェの背中に腕をまわして、抱きしめる。  魔法陣の外枠近くにある、最期の一文字まで魔法文字が輝くと… それは唐突(とうとつ)に始まった。  アニマシオンとカジェの周りの景色が、薄暗い秘儀の間から… どこかの貴族が開いた舞踏会へと変わった。  映写(えいしゃ)魔法のように鮮明ではなく、ぼんやりとした断片的な場面に移り変わった… そんな印象の景色である。  舞踏室から庭へ出て、月明かりの下で口論する誰かにピントが合う。  美しく着飾った若い男性オメガと、男性アルファ… 恐らく2人は恋人同士で、痴話(ちわ)げんかをしているようだ。 『ひどい、殿下! その言葉はあんまりです! 僕があなた以外の誰かにこの身を許したと… そう言うのですか?! なんてひどい人!!』 『君こそ王子妃になりたくて、わざと妊娠しただろう?! 私を誘惑して騙すなんて! 腹の子だって、本当に私の子なのか?!』 『僕を愛していると言った、あなたの言葉を信じて… この身も心も捧げたのに!!』 「これは……?!」  私の第2王子()とその恋人… アセプタル侯爵家の令息コルザだ!  2人が付き合っていることは、社交界で噂になっていたが… この予見(よけん)はいったい…? 弟がコルザを妊娠させただと?! 私の弟はここまでクズ野郎だったのか?! クソッ! 何て奴だ!! 「もっと心を冷静に保って… アニマシオン様! 今はこの場面を覚えておいてください! 心を乱していては、大切な場面を見逃してしまいます!」 「そうか… すまないカジェ…」  カジェに頬をなでられ… アニマシオンは第2王子()への怒りを抑えた。  「さぁ集中して下さい、次の予見が始まりますよ…」 「ああ…」  口論する2人から、不意に… 重臣たちが集められた、玉座(ぎょくざ)の間へと場面が変わった。  国王の前で胸に手を当て、膝をつくアニマシオン。  その隣には、第2王子()の恋人、アセプタル侯爵家コルザがアニマシオンと同じく膝をつき、頭を下げていて… 国王が重臣たちに宣言する。 『王太子アニマシオンとコルザの結婚を認める!』 「何だって?!」  私が結婚?! アセプタル侯爵家のコルザ?! なぜ、いきなり私が弟の恋人と結婚することに?! この場面はなんだ?! クソッ! カジェもこれを、見ているというのに!!  自分の腕の中のカジェの気持ちを考えると… アニマシオンの体温はいっきに下がり、心臓が凍りつきそうになる。 「次の予見が始まります…」 「・・・・・・」  自分よりもずっと冷静さを保つ、カジェに… アニマシオンは黙りこむ。  王太子妃となったコルザが、幸せそうに微笑みながら、揺りかごで眠る生まれたての小さな赤ん坊に、キスを落とす。 『良く眠っている…』 『こっちもだ… さっきまで火がついたように、泣いていたのに』 『本当に… 2人ともなんて可愛いのでしょうね…!』  コルザの隣に立つアニマシオンの腕の中で、もう1人の赤ん坊がスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。 「子供… 双子?」  だが、赤ん坊たちはよく似ているが… 双子にしては明らかに、身体の大きさが違う?! 私が抱いている子供の方が大きい! 何日か? 何か月か? 恐らく誕生した日がちがうのだろう…  不意に予見は消え、アニマシオンとカジェの周りは元の秘儀の間へと戻り… 金色を()びた桃色で輝いていた魔法陣からも輝きが消えていた。

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