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第37話
清友の反応は三人とは全く別のものだった。
「もしかしたらそうかも知れないと思ってた」
らしい。
の割に、帝と花月の契りを交わすことになったと話すと、さっと清友の顔に影が落ちた。
「佐理、男同士で花月の契りを交わすってことがどんな意味かちゃんと分かってるのか?」
「わ、分かってるよ、そんなこと」
前からなんとなくは知っていたが、あれからちゃんと調べたのだ。
相手は帝だ。
佐理は男性経験どころか女性経験もない。相当練習しないと満足させられないかも知れない。
それを言うと、清友は呆気に取られたような顔をした。
「まさか佐理は月をやるつもりなのか?」
「一応、どっちもできるようにはと……」
清友は吹き出し、腹を抱えて大笑いする。
「帝は花じゃない。あれは完全にバリ月だ。佐理が月で帝が花だって? 悪い冗談止めてくれ」
「し、失礼な、そんなに笑わなくてもこっちは真剣なのに」
ごめん、ごめんと清友は目尻に滲んだ涙を拭うと、真剣な顔を作った。
「佐理、佐理は花だ。でな、たぶん最初は佐理は何もしなくて大丈夫だと思う」
「そ、そんなことあるものか、相手は帝だぞ、花だっていろいろ奉仕しないと」
「いや、最初からそれは逆に相手が萎えると思うから止めとけ。佐理はただ大人しくされるがままになっておけばいいさ」
清友は佐理から視線を逸らすと、「そっかぁ、ついに佐理も」と呟いた。
その声にはどこか憂いのようなものが含まれていた。
帝は言っていた。
清友は佐理のことが好きなはずだと。
佐理はそんなことはない、清友は友人だと言い張ったが、帝は同じ佐理が好きな男として分かるのだと言って引かなかった。
もし帝の言うことが本当なら、佐理は清友に対していたたまれない気持ちになる。
そんな佐理の気持ちが伝わったかのように、清友は佐理に告白した。
「佐理、実は俺はずっと佐理のことが好きだった。けど佐理は花月嫌いだったから自分の気持ちを言えなかった。佐理を変えた帝はすごいと思う。俺は変えられなかったから。俺の方がずっと前から佐理を知っていて、ずっと佐理の近くにいたのに畜生って思うけど、でも人を好きになるのに時間や距離は関係ないんだよな」
清友の哀しみが佐理に飛び火したように、みぞおちがジンと痛んだ。
「すまない、清友」
佐理は腕で目を覆った。
「謝るな、そして泣くな」
「すまない」
佐理の家の濡れ縁に、二人は日が暮れるまでずっと並んで座っていた。
その清友に、蔵人頭から恋文が届いたのはまた別の話である。
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