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第3話

 その日も希はバーに来ていた見知らぬDomと遊んだ。相変わらずどのDomのグレアも気持ち悪いが、今回の男はセックスは上手かった。プレイルームから戻ると、甲高い男の声が聞こえた。 「もうこの不能追い出してよマスター!Domとか言ってもろくにグレアも出せないし!!こんなん詐欺だ!」 「まあまあ、落ち着いて…」  あまりにもうるさいので見ると、容姿の整った、というより「かわいらしい」というような言葉が似合う男がギャンギャンと吠えていた。その隣で、それより少し背が高いくらいの青年が俯いていた。髪が目元まで伸びており、分厚い眼鏡をした地味な青年だ。  希は彼を知っていた。いつもバーの隅っこで縮こまりながらジュースを飲んでいる青年だ。てっきりSubだと思っていたら、Domだったのか。 「とにかくこいつはこれから出禁にしてよね!こんな奴のグレア、そよ風にもならない!」  そう言い捨てて、怒り狂った犬のように吠えていた男は「ねえ、僕を満足させられる人いない?」と今までの剣幕が嘘のように猫を被って男を誘い、実際それにわらわらと男が群がった。しかし希は同じSubであることを抜きにしても彼には興味はなかった。  希は未だ俯いて、「ごめんね、いつも…」と言葉をかけられている青年の肩を叩いた。青年は予想通り、ビクッと肩を上げて、おずおずとこちらを見上げた。マスターまでこちらを見ている。そんなに意外なのだろうか。 「ねえ、お前Dom?」 「はい、一応…でも今の聞いてましたよね?僕はDomとしては…」 「そんなのどうだっていい。この後時間空いてる?俺と遊ぼう、いいよな?」  にこやかに、しかししっかりと青年の腕を掴み、希はプレイルームへと彼を連れていった。

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