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第1話
「やり直し」
まただ。また脚本のやり直し。
何度目のリテイクだろう、まあもう数えてもないけど。
「これじゃ役者は映えない」
そう演劇部顧問に言われた。
教室から出て、"走るのキケン!"と書かれているポスターを無視して、一心不乱に走り出した。
蒸し暑い6月、汗が滲み出てきた頃、
屋上へ続く階段を一段飛ばしで駆け上がり、
塔屋のドアを雑に開けて思い切り息を吸い込み、
「うわぁーーーーー!!!!!!!!」と大声で叫んだ。
すると、「ぶはっ」と上から吹き出す声が聞こえ、
その方向に顔を向けると「屋上で叫ぶ人なんて本当にいるんだ」とクツクツ笑っている佐伯がいた。
人がいるなんて思っていなかった俺は、顔を真っ赤にして固まった。
『どうして、なんでここに?』と思考をめぐらせている間に佐伯は、のそのそと塔屋に備え付けられているハシゴから下りて俺に近づき、俺より一回り、いや一回り半大きい体で見下ろしてきた。
「なんだよ」と睨む俺に
「なんかしんどいことでもあった?」と思っていたよりも優しい声で聞いてきた佐伯に、俺は拍子抜けした。
ポカーンと口を開けている俺を無視して
「あー急にごめん、結構行き詰まった顔してたから。もし良かったら俺に相談してみない?関わりがないからこそ相談できることもあるし、、、」
『何言ってんだ、おまえ。同じクラスだけど、俺たちほぼ初対面だぞ。』と今までの俺なら、多分そう言っていた。
はずなのに、相当きていた俺は「お、お願いします。」と自然と口から出ていた。
佐伯は「うん!お願いされます!」と嬉しそうに言ってきた。
「それで、何であんなに叫んでたの?」
話しながら座った佐伯は、自分の隣をポンポンと優しく叩いた。
その隣に座った俺は、
脚本で悩んでいること、
ダメ出しを食らって何度も再提出していること、
もうどうすれば良いかわかないこと、
全てを佐伯に話した。
「そっか。村田、すごい頑張ってるね」
「え、あ、あぁ、俺頑張ってるんだ」
「うん、頑張ってる!すっごい偉い!」
佐伯に褒められて、少し気が楽になった。
もしかしたら頭の片隅で誰かに "頑張ってる" と認めてもらいたかったのかもしれない。
そんなことを俯いて考えていると
「大丈夫?」
と心配そうな顔で覗き込んできた。
近さに驚きながら、バッ!と勢いよく顔を上げて、
「佐伯ありがとう。俺もう少し頑張ってみようと思う。」
笑顔でお礼を言うと、少し目を見開いて、
すぐにふわりと笑い
「俺はただ聞いてただけだよ」と応えた。
「今後も相談していい?」
「うん、もちろん。いつでもどうぞ」
「ありがとう。じゃあ、今日はもう帰る。佐伯は?」
「んー、俺はもう少しここにいる」
「そっか、またな。」
そういえばなぜ屋上にいるのか、そう疑問に思いつつ一歩を踏み出した時、
今度は佐伯が「あ!!!」と大声を出した。
そして直ぐに俺の手を引き
するりと右頬に手を添えて優しくキスをしてきた。
「相談料ね」
「はい?」
「これでwin-win!支払ってもらったので、さっさと帰った帰った!バイバーーーイ!」
そう言われて屋上から追い出された俺は、今の出来事を処理するまえに全速力で帰宅した。
帰宅後、制服にシワがつくことを気にせず、ベッドにダイヴした俺は、枕に顔を埋めて、本日二度目の大声を上げた。
すると、"ピコンッ"とスマホが鳴り、内容を確認すると
『クラスのグループから連絡先追加しちゃった!明日の昼休み、屋上においで。お昼でも食べよう』
と連絡が来ていた。
俺、もしかしてとんでもない奴に相談してしまったかもしれない。
〜続く〜
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