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第2話

翌日 昼休み あんなことがあったのに俺は、またここに足を運んでいた。 ドアを開けるか開けないか悩んでいると背後から 「開けないの?」 と声をかけられた。 なんだかデジャヴだなと思いながら振り向くと 案の定そこには佐伯がいた。 「い、いま開けようと思っていたところ。」 「素直じゃないな~」 素直じゃないってなんだ!今日ここに来ただけ偉いだろ! なんて本人に向かっていえるはずもなく、 何か発さないと、そう思った時にはもう佐伯は塔屋のドアを開けて 先に屋上へ足を踏み入れていた。 塔屋の横のはしごを登る佐伯の後を追いかけると、そこには広大な景色が広がっていた。 6月の蒸し暑さを一切感じさせない涼しい風が吹いていた。 「ここ、こんなに景色いいんだな」 「来たことないんだ」 「ああ、屋上自体あまり来る人いないだろ」 「確かに~、まあ人来ないからここにいるんだけどね」 あ、そういえばこいつなんでいつも屋上にいるんだ? 俺が何か考えていると 「景色見ているのもいいけど、早くしないとお昼終わっちゃうよ」 と言われた。 景色じゃない、おまえのこと考えていたなんて言ったら、またからかわれそうだから言わないでおこう。 佐伯の隣に二人分ぐらいのスペースを空けて座り、冷え切った弁当箱を開くと 「いいなー、村田お弁当なんだ」と二人分空けていたスペースはあっという間に 詰められていた。 こいつのパーソナルスペース、一体どうなってんだ。 昨日の今日で警戒してたのに!調子狂う。 「そういえば、台本どうなった?」 「昨日、少し修正した、明日出す予定」 「演劇部っていつ発表するんだっけ。」 「文化祭」 「ふーん」 「聞いてきた割にあんまり興味なさそうだな」 「ええ?興味あるよ!すごいある!演目は?」 「ハムレット、わかる?」 「シェイクスピアの“三”大悲劇だっけ。」 「三じゃなくて、“四”大悲劇」 「難しそうだね」 難しい、この一言で簡単に片付けられるようなお話ではない。 話自体、観客からしたら面白い内容だと思う。 でも、俺たちの演劇部はなぜか男子だけの演劇部で、 【ALL MALE】=【男性のみで行われる演劇】 もちろん、王妃ガートルード、オフィーリアも全員男だ。 「村田は、なんの役やりたいの?」 「俺?まだ台本出来てないけど、もしやるならホレイショー、かな」 「それってどういう役?」 「ハムレットの親友。」 「へぇ、早く台本出来るといいね」 相談?よりも雑談に近い会話をしていたら、きりの良いタイミングで、お昼休みが終わるチャイムが鳴った。 先にはしごをおりていく佐伯を上からのぞき込む形で、 「なあ、今日のは相談のうちに入るのか?」と聞いた。 「あれ、そんなに昨日のこと引きずってるの」 「そりゃあそうだろ!?あんな破廉恥なキス?!」 「ははっ、なんで疑問形っ」 「う、うるさい。だって初めてだったし。」 そうぶつくさ言っていると 「そんなにしてほしいなら仕方ないなあ」といって 軽々とはしごを登り、のぞき込む俺に二度目のキスをしてきた。 「じゃあね~」 颯爽と屋上から出ていく佐伯に 「またかよ!!!!」と声を荒げたが、誰にも届くことはなかった。 というか、今日もなぜここにいて、なぜキスをしてきたのか聞けなかった。 まあ、また明日聞けばいいよな。

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