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第20話

   咳払いひとつ、きりりと顔を引きしめて愛しのツンデレ王子を抱き寄せた。 「男に二言(にごん)はない、掛け値なしにメロメロだ。永久不滅の愛を捧げると天地(あめつち)に改めて誓う」  そう力強く言い切るとともに、鱗に彩られつつある額をついばんだ。もともと漁師なだけに何十枚となく鱗が唇にへばりつこうが、へっちゃらなのだ。それどころか、ぶよぶよバージョンの乙夜はお多福のような愛嬌があってかわいい、とデレデレするあたり守備範囲は広大無辺。  いや、たとえ乙夜が毛むくじゃらの醜男(しこお)になり果てようが、惚れてしまえばアバタもエクボというだ。 「さあ愛の巣こと、うちに帰ろうぜ(初床(ういどこ)の一発目は俺が掘ってもらうほうでルンルン)」 「何をくれたのか気になるな、見てみない?」  いっせのせ、で玉手箱を開けてみたとたん、どす黒いオーラが立ちのぼった(ように見えた)。乙夜の借金は(きん)幾ら也との旨が記載されている、証文から。  しかも太郎が男娼の採用試験を途中で勝手に打ち切る形なったことで違約金が生じ、それが上乗せされた結果、莫大な額を請求してくれちゃってて……。 「うぇえ、竜宮楼って闇金よかガメつい」 「見世物小屋とか大道芸とか、仕事をえり好みしないで僕も働くし。ふたりでエンヤコラなら、ちょちょいのちょいで返済できるよ。一緒に試練を乗り越えるのが……夫夫(ふうふ)の証しなんだよね?」  鱗が照り映えて、晴れやかな笑顔がなおさら眩しい。トンビがびっくりして逆旋回するほどの大絶叫で応じた。 「乙夜ぁ、宇宙でいちばん愛してるぞお!」  思いの丈を込めて抱きしめると、あらら大変。長らく海の底で暮らしていたぶん水分含有量が多いとみえて、ずるりと皮膚がむけた。    ところで山の向こうの浜辺では悪たれどもが代わるがわる、法被姿の亀の頭をしごいてガマン汁の飛ばしっこに興じていた。おや? ひとりの青年が、読者の方々が既視感を覚える光景を物陰に隠れてガン見している。(ふんどし)をずらして菊座をかき混ぜる青年の運命や、推して知るべし。  ともあれ、おとぎ話はこのフレーズで終わると決まっている。めでたし、めでたし。  余談だが、雪だるま式に借金が増えるにつれて愛も深まっていった数年後。太郎と乙夜の合言葉が〝今日こそ初合体〟なのに引きかえ、桃太郎は鬼ヶ島で一大ハーレムを築いて、まぐわい三昧の日々を謳歌していた──。

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