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第19話

 寄せては返す潮の()は、子守唄のごとく長旅の疲れを癒やしてくれる。乙夜は最初のうちは爪先立ちで恐る恐る、徐々に(かかと)を落としはじめて大地を踏みしめた。 「眩しい、それに暖かいね。お日さまを浴びるのは、ざっと百年ぶりなんだ」 「百年は、いくらなんでも大げさだろうが」  太郎は着物を脱いで絞るのにまぎらせて、股ぐらをメッとたしなめた。生還を遂げた喜びと、黒髪艶虐地獄への期待をない交ぜに、ムスコは石膏で塗り固めたようにガッチガチのガッチガチなのだ。  ことさら口を真一文字に結んで波打ち際を振り返り、その直後、キツネにつままれたようにきょとんとした。ハッと我に返ると蒼ざめて、こけつ(まろ)びつ渚を行ったり来たりする。 「乙夜、乙夜、どこに隠れちゃったんだー!」 「おまえの目は節穴なの。ずっと、ここにいるじゃないか」  これは夢か(まぼろし)か。奇妙奇天烈、摩訶不思議。潮風に黒髪をなびかせてたたずむ姿は人魚姫……というより、むしろ半魚人だ。  いつしか下肢は鱗に覆われて、しかも陸に(おか)あがると水圧の関係なのか、ふやけた高野豆腐のように全身がぶよぶよと膨らんでいく。 「ふぅん、そう、ふぅん。旅の恥はかき捨て方式の、竜宮楼限定の、うたかたの恋に身命を()する覚悟で、地上くんだりまでやって来た僕が馬鹿だったよ」  そう淡々と言葉を紡ぐのとは裏腹、砂の城をこしらえては波にさらわれるに任せる後ろ姿が、むせび泣くようにわななく。  乙夜は環境が細胞やら何やらに劇的な変化をおよぼす、いわば特異体質に違いない。太郎はあっさり片づける一方で思った。ひと回り躰が膨張したということは当然、花茎にも影響を与えているはず。すなわち新たな巨根伝説のはじまり。ひいては番いおおせたとたん、 「おっきいのが奥まで届いてる……っ!」  よがり声を放って、あこがれのメスイキが叶っちゃうかも♥

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