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第18話
「どうだった、俺の勇姿は」
「(惚れ直したというのは照れ臭いから)まあまあカッコよかったよ。ご褒美の前渡し分」
黒髪が衿元から忍び込み、うひょひょとなったのも束の間、
「待て、待て、待てぇ!」
タイラは金目鯛、ヒラリンは鮃 、ほーちゃんは帆立。いやはや、こいつは驚いた。例のトリオが人間の皮を脱ぎ捨てて追いかけてくるではないか。
もっとも本来は砂泥に棲息する鮃が追跡チームに加わることじたい無理がある。ヒラリンが脱落したのにつづいて、タイラが投網にかかって「さようなら」。
ところが、ほーちゃんは猟犬並みに執念深い。ぱっくんちょ、ぱっくんちょ、と殻を開閉して推進力を高める泳ぎ方で迫り来る。
ほーちゃんには法悦境へ一直線の、おしゃぶりで世話になったという恩がある。それはそれとして、駆け落ちするのを邪魔してくれるからには酒蒸しにして返すのも、やむなし。
太郎は乙夜を背中にかばって身構えた。そう、さりげなく着物の裾をめくってフリチンで眩惑 する形に持っていったのだ。闘牛士は赤いマントを翻して牛を挑発し、突進してきたところで剣を振るう。それを応用した作戦に出たわけで、
「さあ、かかって来やがれ!」
ちょんちょんと擬餌鉤 を上げ下げするように腰をくねらせた。すると、ほーちゃんは朗らかに笑うふうに殻をカタカタと鳴らして、
「乙夜、太郎ちゃんはトンマだけど、割れ鍋に綴じ蓋の精神で末永くお幸せに」
朱房の組紐も麗しい玉手箱をよこした。
竜宮楼の命 を受けて太郎と乙夜をとっ捕まえにきた追っ手その二かと思いきや、あにはからんや祝いの品を届けてくれたのだ。パシリを果たしてやれやれと言いたげに、ぱっくんちょ、ぱっくんちょ、と泳ぎ去った。
「あの三人は徒党を組んでいびってくるから、僕はてっきり嫌われていると思ってた」
「また会う機会があったら仲よくなれるさ」
そう優しく囁いて、玉手箱に頬ずりする乙夜をよしよしと撫でた。
海鳥が小魚めがけてダイブするたび、あぶくが波紋にじゃれつく。空が水面 に映って光の粒子が瑠璃色に弾ける。やがて入り江に泳ぎ着いた。見覚えがある風景だ。渚に沿ってしばらく歩いた先が、なつかしの故郷 だ。
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