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第39話:わん

「っ大人しく聞いてりゃ好き勝手言いやがって…なんなんだよあんたっ…何がしたいんだよ」 やばい空気を感じる。距離取りたいのに腰が抜けてる。 クソだせえ。威勢を張ってみたものの、迫る警官から逃げる事ができない。 「入江が言ったでしょ。僕は君に新しい人生を与えたいだけ」 「それがあんたのペットって…冗談じゃないっ、こんな事までするなんて」 「なんで?何が違うの」 「…は?」 「君が今までしてきた事と、何が違うか教えてよ」 「………」 ズイッと顔を近付けられ目を背けてしまった。 何が違うって、そんなの 「…じ、自由にもっと家とか出れてたし…」 女のところにいた時、俺何してたっけ? 「か、金もくれたし……」 あれ、待て。俺本当に何してたっけ。 「自由とお金ね。前者は今後の君次第。後者は考えておくよ」 「………」 「で、君は僕に何をくれるの?」 「…………」 何って…わかんねぇよ。 女は俺が居るだけで喜んでいた。たまに外にデート行って、家に居る時は家事とか掃除とか俺がしたら喜んで多めに金くれたりしたから、家の事すんのもそれが体に染み付いてるだけで… あとは、相手が求めてきたらセックスして… 「好き」だとか、大して思ってもないのに薄っぺらい愛をちらつかせる。 反吐が出るような甘い言葉も何度も吐いた。 それが嘘だってわかってた女もいたと思う。でもそれでも心底幸せそうな顔をして笑うんだ。 お互いの需要と供給が合ってたから成り立っていると思っていた。 でもそれは俺だけが満足していただけで、だから最後は捨てられる。 もっと大事にしてたら今こんな事にはなってなかったんだろうか。 なんて、馬鹿な事を考えてしまった。 「僕はね、いじめたいわけじゃないんだよ。言った通り君を大事にしたいと思ってる」 「………」 「だけど飼い犬に手を噛まれて黙ってるほど僕は優しくないよ。それだけは覚えておいた方がいい」 「…っ…それ脅してんの?」 「あははっ、まぁこう言って君が今後どう出るか見てみたいってのもあるけど」 新しい俺の飼い主はきっとヤクザで、しかも警官で何が地雷かわかんねぇ奴だ。 男だし。そんな奴の機嫌をどう取っていけばいいんだよ。 何が面白くて俺なんかを飼おうなんて思ったんだ。 ほんと意味わかんねぇ… 「繰り返しになるけど、君は僕に何をくれる?」 顎下を人差し指で持ち上げられる。警官はそう言って黒く微笑む。 「…………」 「答えれるようになるまでは僕の言う通りにしてもらうけど、いいよね?」 「ちょ…っ‼︎」 ちょっと待て、と口にしようとした瞬間、また首を掴まれる。 「返事は“はい”か、そうだな…“わん”でお願いね」 「っ‼︎」 ベロっと唇を舐められる。体がビクビクと震え出した。 はいかわんって…拒否権はないってかくそ。 「ほら…返事」 「…っ……」 さっきまでとは打って変わった低い声。 首を掴む手に込められる力と刺すような鋭い視線。 「……は…ぃ」 声に出たかもわからないほどか細い“返事”。 気に食わなかったのか、警官は手の力を強めた。 「ぐっ!」 「んん〜、ごめん聞こえなかった」 「……っ」 こんな至近距離にいるんだから絶対聞こえてるはずなのに、知らないふりをする。 「もう一回。今後はちゃんとね?」 「…っ…く…」 ああもう。どうすりゃいいってんだよ。 「…わ…わん」

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